日本で唯一配偶者居住権を創設した審判例

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正妻の地位を守れと一部の政治家が音頭取りして立法化された配偶者居住権。実務で、どれだけ浸透しているかを登記件数から見ると、令和7年は839件で870個、令和6年は861件で877個、令和5年は911件で920個、令和4年は892件で922個、令和3年は880件で900個(※個数は対象となる不動産数)。多少の減少傾向はあるものの、おおむね横ばいで推移している。

ただ、これは、大部分が紛争性のある遺産分割ではなく、税理士さん主導で相続税節税のための手段として登記されたものだと思う。立法者は意識しなかったと思うが、配偶者居住権は、権利者の死亡と同時に消滅するという特性から、配偶者控除と組み合わせることで長男等の後継者がほとんど相続税を支払わずに実家を相続できるという魔法の制度みたいになっている。そして、節税以外にはほとんど利用されていない。

東京家裁に関する限り、そもそも遺産分割調停で話題になることもなく、裁判官が任期中に1件程度扱うかどうかという水準である。それも、話題にはなるが、結局は他の方法がいいといって立ち消えになる。特に東京や大阪などは、遺産は、一戸建てよりもマンションが多く、マンションの場合は、土地はわずかで大部分が建物だから、配偶者居住権が結構高く評価されてしまい、使い勝手が悪い。

ただ、おそらく全国で唯一、審判で配偶者居住権を設定した事例がある。福岡家庭裁判所令和5年6月14日審判である。

相続人は、被相続人の配偶者A(相続分6分の3)、子どもB(相続分6分の2)、子どもC(相続分6分の1)。

配偶者居住権の評価については、①日本不動産鑑定士協会連合会が公的な評価方法と定めた還元方式(配偶者居住権の存続期間中に配偶者が享受する経済的利益の現在価値の総和を求める方法)と、裁判所は法務省サイドで定めた簡易な方式(居住建物及びその敷地の価額から配偶者居住権の負担付きの各所有権の価額を引いた額)があるが、当事者は審判移行前に、簡易な方式で計算し1,886,241円とすることで合意していた。また配偶者居住権の底地は、Cが取得する旨の希望を事前に述べていた。

配偶者居住権を審判で取得するには、まず評価を決める必要がある。遺産分割においては、通常、鑑定人は日本不動産鑑定士協会連合会が公的な評価方法と定めた方法で鑑定するが、遺産分割だけは公的な評価方法は使えないとする意見が裁判所にも日本不動産鑑定士協会連合会にも強い。また、配偶者居住権を設定する際、相続人に、負担付きに不動産を審判で押し付けることはできないとされている。

この二つの理由から、裁判所で配偶者居住権を審判で付与するのは、非常に困難と解されている。

今回の審判は、たまたま、評価は相続人全員の合意があり、また配偶者居住権の負担付き不動産を取得しても構わないという相続人もいたという二つの出来事が重なり、審判で配偶者居住権が設定された。

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この記事を書いた人

1951年新潟県出身。中央大学法学部卒業。東京弁護士会所属。1981年弁護士登録。1983年森法律事務所設立。家事事件・不動産事件等が中心業務。主な著作に『法律家のための相続判例のポイント』・『法律家のための遺言・遺留分実務のポイント』・『弁護士のための遺産相続実務のポイント』(いずれも日本加除出版)などがある。趣味はカメラを片手に旅すること。森法律事務所:東京都中央区新川2-15-3 森第2ビル TEL:03-3553-5916