森法律事務所から一言

公正証書遺言については、近時、無効とする判決が相当数出ています。

以前は、公証人の厳重なチェックを経ている以上、無効となるはずがない、と言われていましたが、今は、無効とされる例が少なくありません。

そして、その多くが、遺言能力と口授に関係しています。

 

公正証書遺言は、法の建前とは異なり、相続人や関係者が被相続人に働きかけ、

その文案は、相続人や関係者が作成し、その作成した文案を事前に公証人に送り、公証人が大体の原案を作成し、当日、遺言者が関係者と一緒に公証人役場に行き、そこで、公証人が

遺言者と数分面談したのち、遺言書を読み上げ、署名・押印して、終了です。

 

遺言作成にあたり遺言者が終始受け身のときは、公正証書遺言でも、無効にされるリスクは

高くなります。

公正証書遺言を巡るトラブルの激増から、最近は、公証人も、口授に関しては慎重になり、

ただ単に「これでいいですか」と確認して終了というケースは少なくなっています。

それでも、公正証書遺言が無効とされるケースはあとをたちません。

 

公正証書遺言作成にあたっても、経験豊富な弁護士に相談して作成されることをお勧めします。

なお、公正証書遺言は、建前では20年間の保存義務しかありませんが、実際は、各地区によ

って取り扱いはことなるものの、ほとんど半永久的に保存しています。

また相続後なら、相続人は、誰でも閲覧謄写ができるし、検索をかけて全国の公証人役場に、他に公正証書遺言があるかないかを調べることができます。

 

 


公正証書遺言 Q&A

公正証書遺言の要件を教えてください。
遺言能力があり、かつ、民法969条の要件を遵守していることです。
遺言を作成する以上、遺言能力があることが必要ですが、さらに以下の要件が必要です。
  ① 証人2人以上の立会い
  ② 遺言者が公証人に遺言の趣旨を口授
  ③ 公証人による口授の筆記及び遺言者と証人に読み聞かせ、または閲覧させ
    ること
  ④ 遺言者と証人の確認後の署名・押印
  ⑤ 公証人の署名・押印
公正証書遺言が無効になる場合は、どんな場合ですか?
遺言能力か口授です。
現在の公証人は、無効にならないよう格別配慮していますから、初歩的なミスで無効にな ることはありません。
ただ、遺言能力の有無は、公証人には判断できず、簡単な問診をし、医師の診断書を見るだけで判断しています。また口授といっても、現実には、遺言者が公証人にその場で遺言の趣旨を口授することなどなく、単に内容を確認し遺言者が「はい、そのとおりです」ということで、口授があったと処理しています。
この2点は、公正証書遺言制度の盲点で、近時、公正証書遺言が無効とされるケースは、ほとんどこの2点に集中しています。
口授が認められない場合は、どんな場合ですか?
遺言者が公証人にこれでいいかと問われ、単に肯定・否定の動作をしたときです。
判例の一般的な傾向からいえば、
  1、単に肯定または否定の動作をしただけの場合は、音声がなく、「口授」とは
   言えない。
  2、公証人と事前打ち合わせをしたのが遺言者本人なら、「はい」「いいえ」だけ
   でも、口授を認定する傾向にある。
  3、公証人が事前打ち合わせをしたのが遺言者以外の場合は、かなり具体的
   な発言を要求する傾向にあるが、統一的な傾向はない。
といえます。
事前打ち合わせが遺言者以外の者と行われていた場合、 「はい」「いいえ」だけでは口授がないと認定されるのはどのよう場合ですか?
遺言者が内容を理解して発言したのか疑問な場合です。
遺言者が高齢な場合とか、意思能力がないとは言わないけれども明らかに衰えている場合で、遺言内容が非常に複雑な場合は、口授を否定しています。
これに対し、遺言内容が単純な場合は、多少意思能力の衰えが見られても、口授を肯定する傾向にあります。
裁判所は、遺言者の判断能力のレベルと遺言の内容の相関関係で口授の有無を判断 しています。
公正証書遺言でも遺言能力がないとして無効になる場合がありますか?
あります。
公証人は遺言能力の有無を判断する能力も権限もありません。公正証書遺言だからといって、当然、有効だと安易に判断できません。
ただ、素人目にも意思能力がない場合は公証人は作成を拒否するでしょうし、疑問を抱く場合は診断書などを提出させますから、自筆証書遺言よりは、無効とされるリスクは減少します。
遺言者が認知症を患っていたら遺言能力はありませんか?
認知症=遺言能力なしというわけではありません。
遺言者が認知症を患っていたことは遺言能力について疑問を抱かせる事情になりますが、それ以上のものでも、それ以下のものでもありません。
能力の有無は、見当識(時間や場所など今自分が置かれている現実をきちんと把握できる能力)、記憶力、認知能力、知能の4要素を総合的に判断します。
ただ、遺言能力は医学概念ではなく法律概念ですから、医療記録からの判断だけでなく、法律的な判断も加わります。
公正証書遺言の無効を防ぐ方法はありますか?
診断書と証人の確保です。
日常生活の簡単な会話はできても、財産の内容や法律行為の意味が分からないケースは、かなりあります。多少でもおかしいと思ったときは、作成前に専門医の診断書をもらっておいたほうがベストです。
また公正証書遺言の証人は、後日の紛争予防に重要な役割をはたします。後日紛争が予想されるときは、法律や医学に詳しい人に立ち会ってもらうといいでしょう。
裁判所が遺言能力の有無を判断するのは医療記録だけですか?
遺言能力は法律概念ですから、医療記録だけで判断するわけではありません。
医療記録による判断は、遺言能力の中核をなすものですが、遺言能力は法律概念であり、医学概念ではありません。判断するのは医師ではなく、法律家である裁判官です。
裁判官は、遺言能力の判断にあたり、以下を重視しています。
  ① 遺言書作成の動機
  ② 遺言書作成を言い出したのは誰か
  ③ 公証人あるいは依頼した弁護士と主に交渉したのは本人か関係者か
  ④ 立会証人への依頼は誰がしたのか
  ⑤ 署名は自書か
  ⑥ 遺言内容の妥当性
  ⑦ 遺言書作成当時の状況
遺言の内容は遺言能力の判断材料になりますか?
なります。重要な要素です。
遺言能力は医学概念ではなく法律概念ですから、従前の経緯からして、遺言内容が妥当であり自然なときは、遺言能力は、かなり緩やかに認定されます。
逆に遺言内容が不自然で妥当性を欠くときは、遺言能力は、かなり厳しく判断されます。 その判断にあたっては、遺言内容が遺言者の常日頃の言動と矛盾はないか、当時の置かれていた状況からして、自発的な意思のもとに書かれたのか、周囲の圧力による疑いはないか、遺言内容は家族関係を考えると自然なものか等を総合的に判断します。