森法律事務所から一言

遺留分減殺事件は、相続人の一部に被相続人と不仲の人がいた場合、

相続人の一人が被相続人を生前中に取り込み、その相続人に有利な遺言書を書かせた場合

等に生ずるトラブルです。

後者の場合、遺言無効確認事件とセットになることが多く、養子縁組無効確認も絡んでくるケースがあります。


遺留分減殺問題 Q&A

[遺留分と行使・放棄]

遺留分とは何ですか?
相続財産について、一定の相続人に一定割合の継承を保証している持ち分利益です。
相続財産は、被相続人の相続財産について、被相続人が自由に処分できる「自由分」と 一定の相続人に一定割合の継承を保証している「遺留分」で構成されています。
被相続人が贈与や遺贈などで「自由分」の範囲を超えて遺留分を侵害したときは、遺留分に基づき減殺請求ができます。
遺留分権利者は、配偶者・子及び子の代襲相続人・直系尊属で、兄弟姉妹には遺留分は認められていません。
遺留分は、相続人が直系尊属のみの場合は3分の1であり、それ以外は2分の1です(昭和56年1月1日以降)。
遺留分算定の基礎となる財産は、相続財産だけですか?
特別受益を加算します。
遺留分の対象は、相続財産ですが、ここに、
  ① 相続開始前の1年間にされた贈与
  ② 1年を超えた贈与でも遺留分権利者に損害を加えることを知って行われた贈与
  ③ 贈与ではないが、遺留分権利者に損害を加えることを知って行われた対価が
   不相当の売買等
を加えます。
しかし、実務上、問題になるのは、主に特別受益です。特別受益に該当するときは、全て一律に遺留分算定の基礎となる財産に組み入れます。遺留分減殺訴訟・調停では、特別受益に該当するかどうかが主たる争点になる場合が多いです。
遺留分は放棄できますか?
できます。相続前は家裁の許可を得て遺留分を放棄し、相続後は、家裁の許可なしに遺留分を放棄できます。
遺留分は、相続開始前も開始後も放棄できますが、開始前は、家裁の許可が必要です。
なお、事情の変更があれば、家裁の許可の取り消しまたは変更を求めることもできます(家事法71)。
遺留分を放棄すると相続人の資格を失いますか?
失いません。
遺留分の放棄は、相続の放棄ではないので、相続開始後も、相続放棄をしない限り、相続人の地位を失いません。 

[遺留分を行使する 行使の方法と期間] 

遺留分減殺の意思表示は、どうすれば良いのですか?
配達証明付内容証明郵便で遺留分による減殺請求の意思表示をします。
遺言書の存在が確認された時点で、遺言書の内容が遺留分を侵害していると疑いのある時は、配達証明付内容証明郵便で速やかに遺留分減殺請求の意思表示をします。
口頭でも構わないのですが、後日、「言った・言わない」で紛争の原因になります。
受け取りを拒否することが予想される場合は、内容証明郵便と同時に特定記録郵便で同内容の通知を発送し、そのことを本文にも記載する方法をとることになります。
特定記録郵便は、普通郵便と異なり発送配達の記録は残りますが、書留と異なり郵便受箱に配達されます。両方あれば、十分証明できます。
ただ、相手が油断ならない人物の場合、安全確実を期すためには、遺留分減殺調停の申立てをすべきでしょう。
遺留分減殺の意思表示は、いつまで行使しなければなりませんか?
知ってから1年、相続のときから10年です。
遺留分減殺の意思表示は、知ってから1年、相続のときから10年以内に行使する必要があります。
しかし、意思表示すれば足り、その期間内に訴訟や調停を提起する必要はありません。
このうち、「知ってから1年」というのは、遺贈や贈与が行われたことを知っただけでなく、それが、遺留分を侵害する可能性があることまで未必的に認識していたことが必要です。
また、意図的に遺言を隠し、10年経過してから遺言書の存在を明らかにしたときなど、 遺留分の消滅を主張しても権利濫用になる場合があります。
遺言が無効だと考えて遺言無効確認訴訟を提起しましたが、遺言の存在を知って2年経過した時点で敗訴が確定しました。今から遺留分減殺の意思表示ができますか?
できる場合もありますが、原則として、できません。
1年という短期消滅時効は、「減殺すべき」贈与または遺贈のあったことを「知った時」から起算しますので、その贈与または遺贈が「減殺すべき」ものであることを認識していたことが必要です。
しかし、家事実務では、「もしかしたら侵害されているかもしれない」という可能性の認識があれば、十分とされています。そこで、遺言が無効であると確信したことがやむを得ないという特別の事情がない限り、「知らなかった」という弁解は認められません。
遺言が無効だ、他に隠し遺産がある等の理由で、遺留分侵害の問題は生じないと思っても、念のため、遺留分減殺の意思表示をしておくべきです。
意思表示しなくとも、1年以内に遺留分減殺調停を申立てたらどうでしょうか?
リスクがあります。
遺留分減殺調停でも、期間内に相手方が調停に出席し、きちんと遺留分減殺の意思表示が伝わるなら、問題はありません。
しかし、民事訴訟と異なり、家事調停では、適宜、普通郵便で相手方に送達しており、本当に期間内に相手方に届いたか記録上不明です。受領書の提出も必要ありません。
そのため、1年以内に調停の書類が送達されたか不明となり、消滅時効を援用されるリスクが高まります。できれば、事前に配達証明付内容証明郵便で遺留分による減殺請求の意思表示をしたほうがいいと思います。
減殺対象の贈与等は、全てを同時に減殺できますか?
相続に近い順から減殺することになります。
実務では、減殺の順序が問題になることは、あまりありません。ほとんどの事例では、「相続させる遺言」の遺留分侵害が問題になるからです。
しかし、相続以前の贈与や特別受益を加算すると遺留分侵害になるというケースで、判決になると、この「順序」が問題になります。
家裁実務では、取引の安全を考慮し、できるだけ直近の取引から減殺することにしています。順番としては、遺贈・相続させる遺言→死因贈与→生前贈与になります。
遺留分の意思表示は、財産を選んで行使できますか。 例えば全財産が1億円で遺留分が4分の1の2500万円の場合、2500万円相当の土地の返還だけを請求することはできますか?
できません。それぞれの財産の4分の1です。
遺留分は、総遺産に対する割合的権利ですから、遺留分を行使すると、それぞれの財産のうち遺留分割合が遺留分権利者に復帰することになります。
例えば遺留分が4分の1で、遺産総額1億円のとき。内訳としてA不動産が2500万円、B不動産 も2500万円、預金2500万円、株2500万円の場合、遺留分権利者は、AB各不動産の4分の1の共有持分、預金625万円、株はそれぞれの株につき持分4分の1の共有状態になります。

[遺留分の放棄と剥奪]

遺留分を行使された場合、減殺請求を受けた者は、どのような対抗手段がありますか?
価格弁償権の行使です。
遺留分を行使された場合、相続欠格事由を主張して相続資格を争うとか、遺留分行使そのものを権利濫用とする場合がありますが、あまり現実的ではありません。
一般的には、価格弁償権の行使しか手段がありません。
ただし、この価格弁償権は、個々の遺産を選択して行使することができ、例えば、 A不動産は価格弁償権を行使して金銭解決をし、B不動産は、共有状態のままにすることもできます。
遺留分権利者の相続資格をなくしたいのですが、可能ですか?
相続欠格と相続人廃除の制度があります。ただし、代襲相続が生じます。
被相続人が一部の相続人と極めて関係が悪く、そのため遺産相続から外されたケースでは、遺留分権利者の相続資格を剥奪する方法を検討することになります。
このうち、相続欠格は、被相続人や先順位の相続人の殺害に関わった相続人や遺言書の偽造・変造に関わった相続人の相続資格を剥奪する制度です(民法891条)。
実務上は、遺言書を偽造したり隠した場合に問題になりますが、射程範囲が極めて限られています。
相続人廃除は、被相続人を虐待したり重大な侮辱をした場合か、当該相続人に「著しい非行」がある場合に、相続資格を剥奪する制度で、射程範囲は広いのですが、「生前廃除」(被相続人が生前に廃除の審判申立てをする)か「遺言廃除」の方法しかありません。
相続人が独自に廃除の申立てをすることはできないのです。
また、これらの方法で相続資格をなくしても、代襲相続になるだけですから、実益があまりありません。
生前被相続人から、多額の生活資金をもらっていました。 遺留分を減殺されても、いまさら返金できません。どうしたらよいですか?
相続放棄を検討しましょう。遺留分が行使できなくなる場合があります。
遺留分減殺の対象行為は、民法では①相続開始の1年間になされた贈与と②1年以前で も遺留分権利者に損害を加えることを知ってされた贈与、③贈与ではないが不相当な 対価でなされた有償処分で当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合を規定していますが、判例・家裁実務では、特別受益も遺留分減殺の対象になるとされています。
実務上、遺留分として問題になるのは、ほとんどが特別受益です。
しかし、特別受益は、受益者が相続人であることを前提としていますから、相続放棄をすれば、贈与財産を持ち戻すことはできません。
もし多額の贈与があり、反面、遺産がそれほどない場合は、相続放棄をすることも検討します。ただ、「1年以内の贈与」あるいは「遺留分権利者に損害を加えることを知ってされた贈与」という観点からの問題は残ります。 

[遺留分侵害額の計算と価格弁償] 

減殺対象の贈与等は、全てを同時に減殺できますか?
相続に近い順から減殺することになります。
実務では、減殺の順序が問題になることは、あまりありません。ほとんどの事例では、「相続させる遺言」の遺留分侵害が問題になるからです。
しかし、相続以前の贈与や特別受益を加算すると遺留分侵害になるというケースで、判決になると、この「順序」が問題になります。
家裁実務では、取引の安全を考慮し、できるだけ直近の取引から減殺することにしています。順番としては、遺贈・相続させる遺言→死因贈与→生前贈与になります。
相続人は兄と弟で、遺留分は4分の1です。兄は、被相続人である父から、不動産を生前 贈与されました。ほかに遺産はありません。 (1)相続時には1000万円でしたが、価格弁償を受ける際は、2000万円に値上がりしてい ました。価格弁償金はいくらですか? (2)生前、兄がその不動産を400万円で売却していた場合の価格弁償金はいくらですか?
(1)は500万円です。(2)は、125万円です。
遺留分を侵害したかどうかの判断は、相続時の評価で行います。
これに対し、価格弁償金の金額は、その時点での時価で評価します。
すでに処分した場合は、その時点での売買価格を基準とします。
遺留分侵害額の計算では、相続債務は、遺留分計算にあたり控除すべきですか?
減殺請求される者が全遺産を取得する場合は考慮し、そうでない場合は、考慮しません。
相続債務は、遺産分割の対象にならず、当然に法定相続分に従い分割されます。
遺言で、法定相続分とは異なる負債の相続割合を定めても、債権者には対抗できません。
例えば相続人が子供A・Bの両名で、遺産が1億円、負債が5000万円のケースで、仮に、遺言で、全遺産と全負債をAに相続させる遺言があったとします。
この場合、債権者は、遺言を無視して、A・B両名に、法定相続分に従い、債務の履行を請求できます。
すると、Bの遺留分計算に当たり、法定相続分の債務を負担していることを前提に計算することになるでしょうか。
最高裁は、この場合、遺言通りに遺留分侵害額を計算しなさいとしています。 Bの遺留分が4分の1とすると、1億円-5000万円÷4=1250万円が遺留分侵害額になります。
しかし、前記の遺言で、全遺産のうち9000万円をAに相続させるとした場合は、Bの遺留分計算にあたり、法定相続分の債務を負担していることを前提に、遺留分侵害額を計算します。