公正証書遺言のデジタル化は、意外と役立たない

現在、我々弁護士の間では、共同親権とか法定養育費ばかりが話題になり、相続分野は、あまり注目されなくなっていますが、実は、先々月の10月1日に大改正が施行されました。公正証書のデジタル化です。非情に重大な改正なのですが、家族法の改正と民事裁判のデジタル化の話題ばかりで、公正証書のデジタル化は、同業者の間でも、全くと言っていいほど、話題になっていません。
弁護士業務で公証人役場にいくとしたら、普通は、遺言です。公証人に電話をし、いろいろと書面のやり取りをし、それから公証人役場に、委任状とか印鑑証明書などを持参してよっこらしょと出かけ、ここで、公証人と面談し、その上で、公証人が事前に作成した書面を読みあげ、遺言者が、「それでいいです」といって終了でした。公証人役場は、アクセスが容易な場所のところが多いですが、半日つぶして出かけるというのは、多忙なときは、結構、負担でした。
もちろん、遺言者が病気等で公証人役場にいけないときは、公証人は、わずかな日当をもらうとはいえ、ちゃんと来ていただくことができましたが、面倒だというのは、公証人に来てもらう理由にはなりません。
しかし、先々月(10月)1日から、机の前に座って、公正証書遺言ができるようになりました。公正証書のデジタル化で、WEBで作成ができるようになったからです。これで、仕事が楽になったかとおもうと、実は、問題点もあります。
第1は、送達が難しいことです。公証人の仕事は、作成した公正証書をクラウドにあげることで終了します。債務者が任意でダウンロードすることで、送達となりますが、ダウンロードしなければ、いつまでも送達したことにはなりません。無理矢理ダウンロードさせる方法は、ありませんから、相手方がダウンロードを拒否している限り、送達が永遠にできないことになります。
第2は、信用性が劣るということです。特に遺言について言えます。従来は、公証人役場で、公証人が、第三者を排除し、本当にこの内容でよいのか、確認していました。実務では、「遺言者が書いた遺言書」もありますが、「推定相続人等が遺言者に書かせた遺言書」も少なくないからです。ところが、WEBだと、本当に一人なのか、「書かせた」張本人が画面の外で監視し、いろいろコントロールしているのではないかという問題点があります。デジタルで作成された公正証書遺言は、はっきりいって、信用力が落ち、「公正証書遺言だから」という信用性はなくなります。作成時に、公証人が、本人の能力や真意の確認が十分できないからです。
もちろん、公証人が、遺言者の年齢や能力などから、WEB会議形式にするか判断できますが、正確な判断が期待できるとは限りません。
こう考えると、公正証書遺言のデジタル化は、ビジネス分野では役立つでしょうが、家事分野では?です。財産分与にせよ婚姻費用にせよ送達されないリスクがあるし、遺言は、公証人が直に面談して確認したという作業がない以上は、せっかくの信用力がなkらです。
