養育費と事情の変更

いったん定めた養育費も、事情の変更があれば増減額することができる。どの程度の事情の変更があれば養育費の額を変更できるかについては、東京高決R6・11・21((家法57・53~)では、「協議の際に基礎とされた事情に変更が生じた結果、協議の内容が実情に適合せず相当性を欠くに至った場合)としている。
要件1 協議の際に基礎とされた事情に変更が生じたこと
算定表と異なるというだけでは養育費の増減請求はできない。当事者は、それで合意しているからである。算定表は、あくまでも、合意ができない場合の裁判所の用いるツールであって、「算定表と異なる」=不合理ではない。事情の変更があり、その結果、養育費の額が不合理な数字になることが大切である。事情変更の典型例は、当事者双方の収入の増減だが、再婚や子供が産まれた等で扶養家族の増減があった場合や進学等も事情の変更にあたる。
要件2 内容が実情に適合せず相当性を欠くに至ったこと
これらの事情の変更があれば、当然に増減できるものではなく、これらの事情の変更があった結果、内容が実情に適合せず相当性を欠くに至ったことが必要だが、現実には、標準算定方式で算出された養育費と現在の養育費が大きく異なるか否かで判断している。実務では、その結果標準算定方式で算出された養育費とどれだけの食い違いが生じているかが最大のポイントになる。
ところが、どれだけの食い違いが生ずればよいかについては、全く統計がなく、この点を触れた書籍もない。上記判例は、標準算定方式で計算した数値が合意した養育費の1,55倍の事案であり、少なくとも、1,5倍なら、増減は認められる可能性は高い。それなら、1,1~1、4倍のどのあたりが増減の基準となるかであるが、感覚的にいうと、1,2倍あたりだろうか。松本198も、2割程度としているし、東京高決R 3・ 3・ 5(R3(ラ)145 ウエストロー・ジャパン)では、5万円を6万円に増額している。しかし、一方で3割減少(大阪高決H22・3・3家月62・11・96)でも、2割減少(大阪高決H19・6・14 H18(ラ)805)でも、変更を否定している事例もある。1,2倍や1,3倍あたりは、裁判官の裁量、事案の事情に影響される部分が多い。
要件3 予見可能性
事情変更の要件として予見可能性が言われる。しかし、予見可能な事情は考慮しないとなると、いずれ昇給や15歳になること、退職すること、役員手当の終了等は、いずれも予見可能なはずであり、だからといって、これらを予見可能として増減しないという事例は少ない。養育費を定める場合は、ある程度は予見できても正確な事情がわからないと決められないからである。大体の場合、これらの事情は、またその時に決めましょうということで合意する。
この予見可能性という要件は、すでに当時予見できたのにそれを今更主張することが信義則に違反する場合に使われることが多い。実は不貞相手と同居していて離婚成立後に再婚した場合です。再婚予定なのに、それを秘して合意した場合等がそれに該当する。再婚するかどうか決めていなかったと反論しても、可能性は認識できたでしょうとして減額請求を封ずることができる。
いつから増減するか
事情変更を理由として養育費を増減する場合、いつから変更するか。これについては、①事情変更が生じた日②調停を申し立てた日(請求の意思を明確にした日)、③審判日の3つが考えられる。①にすると、当事者に精算の問題が生じ、酷な結果となるし、③にすると、わざと引き延ばしを図る当事者がでてくる。通常は②だろうが、減額の場合は③も多い。これから決めるのと異なり、ケースバイケースで判断するしかない。珍しい事案であるが、東京高決R6・11・21((家法57・53~)は、調停申立後、養育費増額の事情が生じた日としている。
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