遺産の調査

遺産相続の第一歩は、相続財産の調査です。

財産別の調査方法は、弊著「法律家のための相続判例のポイント」2頁~一覧表形式で記載してありますので、そちらをご覧ください。

一番、有効な方法は、相続税を一緒に申告することです。相手の税理士に頼むのは抵抗があるかもしれませんが、依頼を受けた税理士が、一部の相続人不利な申告をわざとすれば税理士法違反になります。

元東京家裁調停委員の視点

当事者や代理人の中には、裁判所に持ち込めば裁判所が遺産を調査してくれると思い込んでいる人が少なくありません。

一番、多いのが使途不明金。〇年前に、不動産を〇億円で売却したが、その売却代金がどの口座にも振り込まれていない、その売買を取りしきったのは相続人の△△だから、△△がどこかに隠している、それを調停委員会が追及してもらいたい、こういう要求を堂々と行ってくる代理人がいます。

主張書面に、あれこれ事情を書いて、おかしい、隠していると主張されても、裁判所は、調査しようがないし、中立であるべき調停委員会が、そんな追及などできるはずがない。

もしその存在を証明できないなら、それはそれでないものとして処理するしかありません。当事者でさえわからないものは、裁判所は、もっとわからない。

遺産分割調停で、調停委員会ができることは、判明している遺産を分割するだけです。

自分にできないから、調停委員会を代理人代わりに使おうというのは無理です。まず上記書籍の一覧表を基に自分で調査してください。

遺産の調査 Q&A

[遺産調査の方法その1]

被相続人と同居していた兄によると、遺産は1000万円の預金だけということです。こんなに少ないはずがありません。遺産分割調停を申立てれば、家裁が兄を追及してくれるでしょうか?

家裁は、遺産探しをしません。

遺産がこんなに少ないはずがない、不動産を売却した売却代金が存在しないのはおかしい、どこかに隠しているはずだ、こういう理由で遺産分割を申立ててくる弁護士が多く、 家裁を困惑させています。

当事者にわからないものが、裁判所にわかるはずがありません。家裁は、判明している遺産を分けるだけの作業をするところで、遺産探しはしません。

預金や証券については、相続人である以上は、金融機関・証券会社は、被相続人名義の預金の調査には応じてくれます。おもいあたる金融機関・証券会社をしらみつぶしにあたって、脚で調査するしかありません。

不動産については、名寄せ台帳等で確認することになります。

財産別の調査方法は、弊著「法律家のための相続判例のポイント」2頁~一覧表形式で記載してありますので、そちらをご覧ください。

 [遺産調査の方法その2]

相続人は、兄と弟の私だけですが、遺産は兄が管理し、私には、どういう遺産があるのか、さっぱりわかりません。どうしたらよいですか?

相続税申告書を開示してもらいましょう。

兄弟間には遺産は隠せても、税務署には、遺産隠しはできません。保険や証券など、税務署は、独自に調査することができるからです。万一発覚した場合は、延滞金等の加算もあり、遺産隠しをする人も、税務署には比較的正直に申告します。

できれば、同一の税理士に相続税申告を依頼すれば遺産隠しの問題は生じませんから、お兄さんに、同一の税理士に相続税を申告しようともちかけてみたらどうでしょう。

遺産分割調停で、兄に相続税申告書を見せてほしいとお願いしましたが、
拒否されました。家裁から税務署に調査嘱託を提出してもらうことはできますか?

できますが、守秘義務を理由に拒否されます。

遺産分割調停で、遺産の範囲を確認するため、相続税申告書の任意提出を求められますが、ほとんどの当事者は、開示します。開示を拒否することは、遺産隠しをしていると宣言するに等しいからです。

当事務所の経験では、申告書の提出を拒んだ例が一件だけあります。

遺産分割調停・審判手続では、関係官公庁、金融機関等に対し、必要な事項について調査嘱託ができますので、税務署にも、調査嘱託ができます。しかし、税務署は、税務署の守秘義務を理由に回答を拒否します。 お兄さんが拒否した場合は、強制的に開示させる手段がありません。調停委員会を通じて説得してもらうしかありません。

被相続人の預金口座を管理していた相続人の兄が、生前、多額の預金を引き出し、自分の口座に移していたようです。弟である私が兄に被相続人と兄の通帳の開示を求めても拒否されました。どうすればよいですか?

被相続人の通帳は自分で銀行に開示請求できますが、お兄さんの通帳の開示はむずかしいです。

被相続人の通帳については、通帳を管理していた兄が通帳の開示を拒んでも、相続人は、預金契約上の地位を承継した相続人という独自の立場から取引明細の開示を金融機関に請求できます。

まれに全相続人の同意を開示の条件とする金融機関がありますが、この場合、裁判所に調査嘱託の申し出をすれば、裁判所を通じて、開示できます。 一方、預金を移したと思われるお兄さんの口座については有効な開示手段がありません。被相続人の名義以外の預金口座は、たとえ、相続人と言えども、名義人の同意がない限り、調査嘱託できないからです。

兄は、相続財産である収益マンションの家賃を独り占めし、もう一人の相続人である私(弟)に明細さえ明らかにしません。家裁に遺産管理人を選任してもらい、遺産管理人が遺産を調査し、遺産分割が終了するまで家賃を管理してもらうことはできますか?

できません。

遺産管理人は、「遺産」を管理するだけです。家賃は、遺産から生じているもので、遺産そのものではありません。遺産管理人の職務外です。

仮に、家賃管理を目的に遺産管理人の選任を申立てても、「保全の必要がない」として 申立てが却下されます。 この場合は、地方裁判所に訴訟を提起し、文書提出命令・送付嘱託等の手続で家賃の解明をするしかありません。