遺産の分割方法
遺産分割調停においては、一番最後の段階で遺産を割り振ります。いきなり最初から、割り振りに入ると、自分の取得希望の遺産はできるだけ低い価格を主張し、相手の取得希望遺産はできるだけ高い価格を主張するからです。また、取得希望遺産にあわせて無茶苦茶な具体的相続分の主張がなされます。
大都市では、この方式は遵守されていますが、地方に行くと、段階的進行方式はかなり緩やかで、そのため、遺産分割調停がなかなか進展しません。
遺産の分割方法については、弊著「法律家のための相続判例のポイント」181頁~に詳細に記載してありますので、そちらをご覧ください。
元東京家裁調停委員の視点
遺産分割では、各相続人の相続分評価額に基づいて遺産を割り振りますが、ときどき、「被相続人の生前の意思」とか「被相続人の思い」を強調して、相続分評価額を無視した遺産分割を主張される代理人がおられます。
そういうケースでは、「被相続人の生前の意思」とか「被相続人の思い」のとおりに遺産分割をすると、全ての場合、その主張した相続人に有利な結論となります。
「遺産分割は、あくまで数字の世界です」というと、「人情がわからない」とか、「なんで被相続人の思いを実現させてあげないのか」と猛烈に反論してきます。調停委員としては、本当は「そもそも、相続人間で喧嘩してほしくないというのが被相続人の思いでしょ」と反論したいのですが、そんな発言をしたら、よけい火に油を注ぐことになるので「お気持ちは十分わかりますが、残念ながら、そういう点は考慮されないことになってるんで、我々もどうしようもないんですよ」といって、その場を収めるようにします。それでも、納得しない代理人もおられます。
代理人が好んで言う「紛争の一回的解決」もそうですが、この「被相続人の生前の意思」も、有利に導くための手段であることは、調停委員には、ミエミエです。遺産分割にあたって、遺言書に記載があるか、相続人全員の同意がない限り、「被相続人の生前の意思」は一切考慮されません。相続分は、「被相続人の生前の意思」とか「被相続人の思い」では、増えたり減ったりしません。代理人の方には、ここは十分認識していただきたいと思います。
遺産分割方法
- 遺産分割方法には、どのような方法がありますか?
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現物分割、代償分割、換価分割、共有分割の4つです。
現物分割とは、遺産を現物で分ける方法で、例えば預金2000万円を1000万円ずつ分けることです。代償分割とは、遺産を取得する代わりに代償金を支払う方法で、例えば、取り分が本来1000万円の相続人が2000万円の不動産を相続した場合、1000万円を代償金として他の相続人に支払う分割方法です。換価分割とは、例えば2000万円の不動産を売却し、売却代金を相続分に応じて分割することです。共有分割とは、例えば不動産を分割せず、相続分に応じて物権法上の共有状態にすることです。
- 4つの分割方法には順番がありますか?
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まず現物分割が選択され、ついで代償分割、それから換価分割、最後に共有分割です。
どのような分割を行うかは相続人全員の合意で決まります。合意ができない場合は、分割の順番は、民法、家事法に規定されているとおり、まず現物分割が選択され、ついで代償分割、それから換価分割、最後に共有分割となります。
ただ、実務においては、代償分割がまず選択されることが多く、現実には、代償分割が原則的形態になっており、代償分割が無理な場合は、換価分割が選択されます。
現物分割も共有分割も、選択されることは、あまりありません。
- 現物分割は、なんで選択されないのですか?
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遺産を現物で分割することは困難な場合が多いからです。
不動産は、面積だけで価格が決まりませんから、各相続人の相続分価格に応じた現物分割をすることは、互いに協力しない限り、現実には困難です。預金は、現物分割が可能ですが、利息等で変動することを考えると、難しい問題が生じますし、むしろ、一人の相続人が全預金を取得して、他の相続人に相続分に応じた代償金を支払うとした方が合理的です。
閉鎖会社の株は、事業承継の観点から判例上は代償分割が原則的形態になっています。
- 遺産である賃貸不動産を相続人Aは取得希望しているが、代償金が支払えないので、相続人全員による共有を提案していますが、認められますか?
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相続人全員が同意すればいいのですが、一人でも反対すると換価分割になります。
共有にする分割は、問題を先送りするだけで抜本的な解決になりません。それで、物権法上の共有にする分割は、相続人全員の同意がないか、ほかに適当な分割手段がないときの最後の分割方法です。
本件も、全員が共有に同意すればいいのですが、一人でも反対すれば、取得希望の相続人が代償金を支払うか、それが無理なら換価分割になります。
- 遠隔地にある山林は、誰も欲しがりません。どうすればいいでしょうか?
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相続財産国庫帰属制度を検討しましょう。
遺産には、誰もが取得希望のない遺産があります。特に遠隔地にある農地・山林は取得希望がなく、売却も難しいこと、維持管理も大変なことから、遺産分割では、押し付けあいになります。
従来、取得希望のない遺産は、相続人全員の共有にして、後日、売却しましょうとして、曖昧な解決で終了させていました。今売れないのに、後日売ることなどまず不可能で、この「負」動産は、結局、次の世代に引き継がれ、最終的には所有者不明の不動産となります。
そういうこともあって、国は、一定の条件のもとで相続土地を国が買い上げる相続土地国庫帰属制度をスタートさせました。
当初は問い合わせが殺到したようですが、現在は、利用者は少ないそうです。特に地境を確定する測量図の作成などに無意味なお金がかかり、これがネックになっています。