遺産の評価

遺産の評価について

遺産の範囲が確定すると、次は遺産の評価に移ります。

問題となるのは不動産で、鑑定になる場合も少なくありません。ときどき、書画骨董など、評価そのものが難しい問題もあります。

遺産の評価については、弊著「法律家のための相続判例のポイント」27頁~に詳細に記載してありますので、そちらをご覧ください。

元東京家裁調停委員の視点

遺産分割の趨勢は、不動産の評価で決まることが多いのですが、まず、双方から価格について、意見を聞きます。双方が業者の査定書を持参して、価格を協議するのですが、合意ができない場合は、鑑定します。

ところが、鑑定になると、鑑定費用もかかることから、評価について主張書面をだしたいという代理人が多いんですよね。鑑定しましょうといっても、「待ってほしい、相手の査定書はおかしいから、反論したい」と代理人がいいます。

しかし、これは、全くの無駄です。というのは、裁判所は、価格合意できない限り、鑑定しか選択肢がないからです。双方の主張書面を読んで、うん、これはこっちの査定書の方が正しいとか、そういう判断をすることは、ありません。そんな主張書面は無駄です。

ただ、ほぼ全員の代理人が、このことを知りません。そこで、意味のない主張書面提出のために、もう一回期日を入れようということになり、無駄な調停を繰り返すことになります。

それと、いろいろな動産類を遺産分割の対象にしようという代理人の方、多いですね。骨董品とか、古い家具とか。調停委員としては、遺産分割の対象に加えるのはいいけど、どうやって評価するの?と、内心、困惑します。評価できないものは、遺産分割が難しいということを知らないのです。

たとえば書画骨董は、専門の鑑定人に鑑定してもらうしかありませんが、鑑定料はピンキリ。安い鑑定は、信用性がない。高い鑑定は、鑑定費用が、その遺産の価値を上回ることが珍しくありません。鑑定料は支払いたくない、だけど、遺産分割の対象にしてほしいというのは、無理な要求です。

もしどうしても、遺産分割の対象にしてほしいというなら、評価合意するしかありません。評価合意できないときは、評価の方法を合意しなければなりませんが、そんなこと一つ一つやっていたら、調停は永遠に終わりません。評価合意できなければ、遺産分割対象から外すしかありません。

不動産の評価

不動産の評価を合意したいのですが、どうすればいいですか?

不動産業者のいわゆる査定書を持ち寄り、合意します。

不動産の評価で、一番多いのは、各当事者が不動産販売業者から、いわゆる査定書を持ち寄り、その査定書を参考に評価合意をするという方法です。

普通に頼めば、それほど、価格に開きがでません。しかし、実際は、この査定書を取る際に、業者にバイアスをかける当事者が少なくありません。その結果、互いにかなり異なる価格差がでます。同じ業者が、当事者双方に、価格の異なる査定書を交付していたという場合も経験しました。

そういう場合は、鑑定しか選択肢がありません。価格差の開きが多い場合、これは、当事者のどちらか、または双方が業者にバイアスを掛けたということで、誠実に話し合う意思はないと考えられますから、価格合意はできず、合意のための協議は時間の無駄です。

駆け引きから、より有利な査定書をだそうとしたのでしょうが、結果的に自分の首を絞めることになります。

不動産鑑定士による鑑定書

私は、知り合いの紹介で不動産鑑定に頼んで鑑定書を作成してもらいました。業者の査定書と異なり、信用してもらえるでしょうか?

個人的に頼んだ不動産鑑定士の鑑定書は、業者の査定書と信用性の程度は同じです。

業者の査定書ではなく、個人的に頼んだ不動産鑑定士の鑑定書を提出する代理人もおられます。専門家の鑑定だぞ(ドヤッ)ということのようですが、宣誓を経ていない、個人的に頼んだ不動産鑑定士の鑑定書は、業者の査定書に比べて信用性が高いということは、全くありません。無駄な支出です。

裁判所は、裁判所においてある鑑定人名簿(多くの場合、調停委員を兼任している)から、当事者と利害関係のないことを確認し、宣誓させた上で鑑定させます。

公的価格による評価

査定書だと意見がまとまらないので、路線価を参考に価格合意をしたいと思うのですが?

路線価等の価格を参考に価格合意することは、日常的に行われています。

土地の価格には、実勢価格、公示価格、路線価、固定資産税評価額等があります。東京の平均的な住宅地の場合、例えば、公示価格が100万円の土地は、実勢価格が110~120万円、路線価で80万円、固定資産評価額で70万円といわれています。だから、固定資産税評価額が70万円の土地は、取引になったら110~120万円で売れるということです。

この割合を利用して、実勢価格を算出できます。建物は、固定資産税評価額で評価します。

ただ、この方法は、都心の一等地とか人気のない僻地には適用できません。都心の一等地は、これよりはるかに高く、僻地は、固定資産評価額の半分でも売れません。

また、マンションも、この方式は適用できません。例えば都心のタワーマンション。一等地といっても、土地自体はわずか。土地の時価+建物の物理的時価の合計額よりは、はるかに高い値段で取引されています。マンション、特にタワーマンションは、付加価値のほうがはるかに高いのです。

閉鎖企業の株式

被相続人が経営していた会社の株式はどう評価しますか。完全閉鎖会社です。

それを取得する人が経営権を維持できる場合、時価純資産方式又は(時価純資産方式+利回り方式)÷2です。

閉鎖企業の株式評価

閉鎖会社の場合、多様な株価評価方法があり、そのどれを取るかによって評価が全く異なってくるという特徴があります。

遺産分割では、資産性に注目しますから、その会社が不動産の保有目的なら、BSのうち不動産を時価に修正し、それを株数で割って算出された数字によります。

しかし、現実に企業が活動している場合は、利回り方式も加味する必要があります。この場合は、(時価純資産方式+利回り方式)÷2で行うことが多いですね。

ただ、これは、その株式を取得することで会社の支配権を取得できる場合です。

閉鎖企業の株式と類似業種批准方式

相続税法では、類似業種批准方式を使いますが、遺産分割ではどうでしょうか?

類似業種批准方式は、遺産分割では使えません。

相続税法では、類似業種批准方式を使い、又は簿価純資産方式と併用することから、これを遺産分割でも使用する代理人の方、多いですね。

しかし、類似業種批准方式は、大量かつ画一的・迅速に税務処理を行う必要性から認められた方式で、個別性・具体性が要求される遺産分割の性質とは相いれません。 実務では、多くの代理人が、この類似業種批准方式を主張しますが、その問題性を認識している代理人は、ほとんどいません。当事者全員が、それでいいというならあえて異論を唱える必要はありませんが、本来は、遺産分割では使用できません。