特別寄与

特別寄与について

相続人が確定し、遺産の範囲と評価が確定すると、次は相続分の確定に移ります。

法定相続分なら問題ありませんが、被相続人の遺産の貢献に特に寄与していると、それを考慮した遺産分割基準をたてる必要があります。これが具体的相続分です。

具体的相続分については、弊著「法律家のための相続判例のポイント」27頁~に詳細に記載してありますので、そちらをご覧ください。

元東京家裁調停委員の視点

特別寄与は、代理人や当事者が感情的になりやすい部分です。正確に認識したうえで主張されるならかまいませんが、代理人の無知からの主張が非常に多いのが現実です。昔に比べて、現在は、代理人にも、この点を認識しておられる方が増えてきました。この点は、進歩を感じますが、相変わらず何も知らない代理人もいます。しかも、そういう代理人ほど、ネットで相続が得意と宣伝しています。

一番多い主張が、依頼者は、引退していた被相続人にかわって会社を経営し、発展させた。だから特別の寄与があるという主張。それと、例えば土地を売るのにこういう尽力をしてその結果高く売れた、だから、特別の寄与があるという主張。

この二つの主張、20年以上前から繰り返し繰り返し主張されています。

大体、特別寄与にせよ、特別受益にせよ、聞いた瞬間に、認められるか認められないかわかる場合が多いです。問題は、その場で結論を言うと、代理人の中には感情的になる方もおられということです。調停委員としては、内心、聞いた瞬間に結論のわかる常識問題、弁護士なのに知らないとはなんだ!もっと勉強してこい、と言いたくなりますが、やむなく、もう結論が明白なのに、それでは裁判官に確認しましょうといって、もう一回、期日を入れることになります。

裁判官から説得してもらっても、それでも、納得しない代理人もおられます。

特別寄与にせよ、特別受益にせよ、多くは、結論の出ている論点を主張されることが多いです。書籍を読めば明確に書いてあります。代理人の先生方には、この点を充分勉強して調停に臨んでもらいたいと思います。

特別寄与については、弊著「法律家のための相続判例のポイント」120頁~に詳細に記載してありますので、そちらをご覧ください。

特別寄与

特別寄与とはなんですか?

遺産のなかに、法定相続分のほかに寄与分という基準を作り上げる制度です。

遺産の中には、相続人の寄与により形成された部分があります。例えば、相続人が1000万円援助した。すると被相続人の遺産が一億円とすると、1000万円はその相続人の寄与により形成されたものです。これをひとまとめにして法定相続分で分割すると不公平です。そこで、1億円のうち、1000万円は、法定相続分とは別枠の、援助した増続人の寄与分として分割対象から外し、残りの遺産を法定相続分で分割することになります。特別寄与のある相続人は、相続分+特別寄与分の割合で遺産を取得できます。

寄与が認められるための要件は?

相続財産の維持増加に対し特別な貢献があり、しかも、相続財産と具体的な因果関係があることが必要です。

特別寄与は、相続人のうち、特に親孝行だった人に対する恩賞ではありません。

相続人は、被相続人に対し、夫婦間の協力扶助義務や扶養義務・互助義務があり、 この義務の範囲内の行為は相続分で評価されており、特別な寄与とは言えません。

また、その寄与行為と遺産の維持増加に具体的な因果関係が必要です。

家裁実務では、この認定は非常に厳格で、東京のように遺産総額が大きいときは、遺産取得額の微調整にとどまる場合が多いです。

寄与分は遺産総額に対し割合で主張するのですか、金額で主張するのですか?

金額で主張するのが原則です。

寄与分を主張する際、しばしば「遺産総額の3割」という主張がされます。

過去の判例を調べても、遺産の2割だとか、そういう認定をしている判例が多数あります。

しかし、その判例の多くは、かなり前の判例のはずです。

東京家庭裁判所に関する限り、寄与分の計算式があり、その計算式に従って計算をするので、具体的に寄与分は数字で算出されます。

家裁の遺産分割調停で特別寄与を主張したいのですが、どうすればいいですか?

遺産分割調停とは別に特別寄与の申立てを家庭裁判所にします。

具体的相続分の算定にあたっては、特別寄与と特別受益の計算をする必要がありますが、このうち、特別受益の主張は、遺産分割手続きの調停・審判手続きの中ですればよいのですが、特別寄与は、別事件として、家庭裁判所に申立てる必要があります。

ただ、家裁実務では、当事者に特別寄与の主張があっても、まず遺産分割調停の中で特別寄与の主張をさせ、検討の余地がある場合だけ特別寄与の申立てをさせています。 寄与分の主張には、検討するまでもなく認められない主張が多いからです。

特別寄与には、どのような種類がありますか?

家業従事型、療養看護型、金銭等出資型、扶養型、財産管理型の5種類があります。

この5つの分類は、家裁実務で行われている分類ですが、認定のための便宜的な分類で、これ以外の態様を認めないということではありませんが、ほとんど例がありません。

それぞれのタイプには、それぞれの認定要件があり、その認定要件を裏付ける証拠も概ね定型化されています。

家業従事型特別寄与

父とともに父の専務として、家業を手伝い会社の業績を伸ばしてきました。そのため、父も多額の資産を残すことができました。特別な寄与は認められますか?

認められるのは難しいでしょう。

家業従事型特別寄与の主張ですが、この寄与は、要件の一つとして、無償性が要求されます。

専務である以上、相応の給与をもらっていいたわけですから、無償性の要件を欠くことになります。

また貢献したのは会社であり、父の遺産との間の因果関係の認定も微妙です。

この寄与類型は、主に家族で営む農業・水産業を対象としていて、都会では認められることは、あまりありません。

療養看護型特別寄与

父は永年病院に入院していました。私は、毎日、お見舞いに行き、いろいろと身の回りの世話をしてきました。特別な寄与は認められますか?

認められるのは難しいでしょう。

療養看護型特別寄与ですが、この認定要件の一つとして、療養看護の必要性があります。

病院に入院している場合、現在は、ほとんどの病院が完全看護を建前としていますから、療養看護の必要性がないことになります。

入院している人のための身のまわりの世話は、子としての扶養義務の範囲内と考えられ、特別な貢献があるともいえません。

財産管理型特別寄与

私は、被相続人から頼まれて賃貸不動産の管理をしていました。
特別寄与は認められますか?

認められる場合と認められない場合があります。

その賃貸不動産が数十室におよんでいるにもかかわらず、管理会社に委託もせ

ず、一人で管理業務一切を行っていれば認められるケースが多いでしょうが、逆に、数室のアパートの管理をする一方で被相続人と同居していた場合などは、認められないケースが多いでしょう。

東京家裁での寄与分主張に関する運用方法はどうなっているのですか?

説明書と書式を渡し、主張整理をしています。

寄与分に関しては、親の世話をした相続人とその他の相続人とで感情的な対立が激しく、調整が難航します。代理人弁護士も、寄与分に関する知識がほとんどない弁護士が多く、だらだらと事情を書いた陳述書を提出する等、的外れな主張立証がめだちます。

そこで裁判所では、所定の書式を渡し、主張の整理と立証の指導をするようにしています。