遺言無効

遺言無効について

相続後に遺言が発見された場合、その遺言の有効性をめぐって争われる場合は少なくありません。平均寿命が伸びた一方、健康寿命そのものは、それほど伸びていないことが原因でしょう。

遺言書が発見され、それが一部の被相続人に有利な場合、他の相続人の反発を買い、遺言者の日ごろの言動から、こんな遺言書を作成するはずがない、ということで、遺言の無効が主張されます。それに絡んで、使途不明金問題、遺留分侵害額請求もセットで起こされることが多いですね。

より詳細な情報が必要な方へ
遺言能力に関しては、「法律家のための遺言・遺留分実務のポイント」192頁~に詳しく記載してあります。また、法律家のための相続判例のポイント268頁~では、遺言能力のほか、公序良俗違反・詐欺錯誤による無効・取消に関して、多数の判例と詳細な解説をしています。
・法律家のための遺言・遺留分実務のポイント
・法律家のための相続判例のポイント
詳しい解説・判例が必要な場合は、上記書籍をご参照ください。

元東京家裁調停委員の視点

調停で遺言の無効を主張されることが多いのですが、それでは、いったん、取り下げて、訴訟で解決して、無効が確定したら、また来てください、というと、代理人の方々は、紛争の一回的解決が当事者のためになる、と主張し始めます。それでも通らないとなると、有効であることを認めるわけにはいかないが、有効であることを前提として調停を進めてもらいたいと言います。しかし、中間調書に遺言は有効か無効かを明記しないと遺産分割調停は進められません。

それと、遺言無効は最初から無理とあきらめているのか、これは無効を争ったほうがいいと思われる事案で、なぜか争わない代理人も、相応におられます。遺言が無効・取消になる原因は、別に、遺言能力だけではありません。公序良俗違反や錯誤等も、あります。調停委員会から、こういう無効原因の可能性があるから検討したらどうかというわけにもいかないので、黙っていますが。

遺言能力は15歳以上の能力ですか?

違います。

遺言書を書くには15歳以上でなければならないことから、遺言能力は15歳のレベルが必要と勘違いされている方がいますが、15歳というのは、遺言書作成の形式的要件であって、能力要件ではありません。

遺言能力と意思能力は同じですか?

重なりあう部分があります。

実は、遺言能力とは何かについては、明確に定義している書籍はすくないのです。それほど、曖昧な概念です。

実務は、遺言能力そのものは、意思能力と同じレベルでいいが、意思能力が判断能力を基準にしているのに対し、遺言能力は、これに加えて、その遺言が周囲に与える影響を認識することが要求されると言われています。

被相続人は、認知症でした。遺言能力は、ありませんか?

認知症=遺言能力なしというわけではありません。

認知症だと遺言能力がないと思い込んでおられる方が多いですが、認知症=遺言能力なしというわけではありません。認知症の初期症状は記憶力の減退であり、記憶力の減退が判断能力に影響しません。夕飯を食べたことを忘れても、遺言能力はあります。

しかし、認知症が進行すると最終的に判断能力喪失にいたります。この段階で、はじめて遺言能力の有無が問題となります。

成年後見も同様で、成年被後見人=遺言能力なしでは、ありません。

裁判所は、遺言能力をどのように判断していますか?

医療記録・遺言文言の単純性・遺言内容の合理性です。

特に遺言内容の合理性は重視されますが、不公平だというレベルでは、不合理とはいえません。ただ、当事者の立場からすると、その不公平性が増幅して見えてしまうようで、こんな遺言書を書くはずがない、と強く主張される方もおられます。

どういう場合に遺言が無効となるかは、法律家のための遺言・遺留分実務のポイントの197頁~に無効とした判例40選を挙げています。

遺言能力以外に無効となる場合は、ありますか?

あります。

一番多いのは、遺言者に誤解がある場合です。錯誤です。以前は、内縁の妻に遺贈するのが公序良俗違反かどうかが問題になりましたが、最近は、あまり問題にならないですね。

夫婦共同遺言も、無効かどうかよく争われます。

このあたりは、法律家のための相続判例のポイント275頁~以下に詳細な判例を載せています。
また法律家のための遺言・遺留分実務のポイント268頁~に詳しく載せています。