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森法律事務所の解決事例

以下は、弊所で扱った事件の一部です。遺産分割は、担当弁護士の力量差がかなり現れます。その違いは経験に裏付けされた知識です。

【無効な自筆証書遺言を有効に転換させたケース】
相続人は、A・Bの兄弟二人。被相続人が書き起こした自筆証書遺言があり、それには、「私が死んだら、全財産をAのものとする」と記載してあった。しかし、署名欄に押印が無く、明らかに形式不備で無効である。依頼者はA。 Bの弁護士は、形式不備で無効であるとしてBと遺産を折半するよう和解案を提示した。→こう解決した。
【解説】
本件自筆証書遺言が遺言として無効なことは争いようがない。しかし、遺言として無効でも、死因贈与として有効になるかを検討すべきで、本件では、死因贈与として有効になるだろう。
Bの弁護士と交渉し、遺留分に若干の金額を加えて和解した。
【養子縁組をしていなかった事実上の相続人に遺産を相続させたケース】
被相続人が父で、相続人は、後妻である母と先妻との間の長男。先妻は、長男が幼い頃死亡し、後妻と普通の母子として育てられてきた。父が死亡したが、遺産は居住家屋のみ。 母と長男で住んでいるので、遺産分割協議は、あえてしなかった。暫くして母が死亡したところ、母の兄が突然現れ、次のように告げた。
「実は、母と長男は養子縁組をしていない、だから、この家屋の半分を相続した。住み続けたかったら家屋の半分の代償金を支払え。それができないなら、家屋を売って売却しろ」 長男は小さいときから、後妻の子供として育ってきた。当然養子縁組もされていると思っていた。困惑した長男は、弊所に事件を依頼 →こう解決した。
【解説】
遺品調査をすると、父の生命保険金は、母が受取人として指定されている。金額は、自宅とほぼ同額。そこで、父からの生命保険金は、特別受益にあたり、母にはもう相続分はない。したがって、父の建物は、母は相続できず、長男が単独相続できると主張。
調停委員会も、生命保険は特別受益にあたり、亡くなったお母さんには、相続分がなく、従って、建物は長男が相続するという判断を示していただき、多少の解決金で和解した。
【遺産の株の評価を大幅に減額し事業承継を可能に】
被相続人は父、相続人は、長男・長女。遺産は、被相続人が経営していた会社の株。会社は、千葉市郊外に工場がある。長男は、被相続人の会社の株の取得を希望しているが、会社の貸借対照表からすると、一株あたりの純資産額が非常に高い。代償金は支払えない。このままでは、事業承継を断念するしかない、として、依頼した。→こう解決した。
【解説】
相談者にまず質問したのは、会社の不動産は、いつ取得したのか、ということ。普通、中小企業の貸借対照表は、取得原価で計上されている。終戦後、まもなく購入した土地は、時価より大幅に安くなっている。逆に、バブルのころに購入した不動産は、時価より大幅に高くなっている。
聞いてみると、案の定、バブル時代に購入したそうで、現在の時価は10分の1程度。そこで、事件を受任し、貸借対照表上の不動産の簿価を現在時価に修正して株価を算出。一株あたりの株価は、大幅に減額されて全株取得し、遺産分割調停が成立。無事に事業承継ができた。
【無効な遺産分割協議を有効にした。】
被相続人は父。相続人は長男、養子縁組をした長男の子(被相続人からすると孫)。当時5才。長男の子は、相続人として、長男と利益相反だから、本来は、特別代理人を選任して遺産分割協議をしなければならない(民824)が、それをしないまま、家族全員で協議して、長男が全遺産を相続させるという遺産分割協議書を作成し、相続登記、預金解約などをした。
その後、長男と長男の妻が離婚し、元妻が長男の子の親権者となった。元妻は、長男の子の親権者として、特別代理人を選任していない以上、先の遺産分割協議が無効であり、長男の子は、被相続人の遺産に対し、半分の権利を有すると主張して提訴。地裁では、遺産分割協議の無効が確認された。その時点で依頼。→こう解決した。
【解説】
特別代理人を選任しないまま遺産分割協議を成立させたから、手続違反であり、無効になる。しかし、本件は、離婚した長男の元妻が、意趣返しに無効を主張しており、長男の元妻自身、当時は、長男の単独相続に賛成していた。
高裁では、その点を協調して、権利乱用、信義則違反を主張した。
高裁は、この点を考慮し、遺産分割協議の無効主張は信義則違反だとして、ある程度の解決金を支払って和解した。
本件は、手続きの適性さと具体的妥当性のどちらを重視するかという問題で、逆転勝訴したとはいえ、紙一重だった。最高裁に行けばどうなったかわからず、勝訴的和解で終了させたのは成功だった。
この遺産分割協議書は税理士が作成したが、やはり、専門弁護士に頼んで協議書を作成してもらったほうがいい。
【遺産分割対象財産の基準時を主張し、本来の相続分よりも、大幅に財産を取得できたケース】
被相続人は父。相続人は長男と長女。遺産は5000万円の土地と4000万円の預金。長女には、一億円の特別受益がある。長女と長男代理人で協議し、相続税の支払いのため、5000万円の土地を共同して売却し売却代金で納税した。 その後、遺産分割調停が申し立てられた。
長男側代理人は、遺産分割調停で、一億円の特別受益を持ち戻せば遺産総額は2億円になる。すでに一億円の特別受益があるから、預金4000万円は長男が相続するのは当然としても、売却した代金5000万円も返金すべきだ」と主張。 とても5000万円は用意できない長女は、弊所に依頼。 →こう解決した。
【解説】
遺産不動産を売却した際は、その不動産は、分割時には、すでに遺産が存在しないから、遺産分割対象にならない。もし含めるとしたら、「後日の遺産分割に含めるという明確な合意」が必用。合意がない限り、その不動産は遺産から逸出し分割対象にならないというのが最高裁判例。長男側代理人は重大な弁護過誤をしたことになる。
弊所より、調停委員会、相手方代理人に説明。
「遺産分割の基準時」という概念を理解していない弁護士が多く、この手の弁護過誤は、かなりの割合で生じていると思われる。注意すべき点である。
ただ、本件では、長男側は、長女はすでに相続分を越えた超過特別受益者であることを認識していた。もし、認識していなくても、最高裁判例が適用できるかは検討の必用がある。
【遺産分割範囲を限定することで依頼者に本来の相続分よりも多く相続させたケース】
父が死亡して、相続人は、長男と次男。依頼者は長男。長男は、生前、父から住宅資金として1000万円の贈与を受けている。残る遺産は、第三者に貸し付けた1000万円の貸金のみ。次男の代理人は、長男に1000万円の特別受益があるから、もう相続分はないと主張した。
長男は、弊所に依頼した。→こう解決した。
【解説】
貸金債権は可分債権だから、相続と同時に法定相続分で分割される。したがって、長男は、1000万円の特別受益があっても、貸金は法定相続分で取得できる。
弊所が、相手方代理人と協議し、500万円ずつ債権を相続すること、回収は協力して行うことで遺産分割協議成立。調停にはいかないで終了。
【譲渡所得税を相手方に負担させることで、実質的に本来の相続分より1.25倍以上、多く取得。】
被相続人は父。相続人は、長男・長女。遺産は、都内のかなり広大な土地。
依頼者は長女。どちらも換価分割に異論はない。
ただ、長男側の弁護士は、売却は、当方の指定する不動産業者に、当方の指定する価格一億円で売却することが絶対条件といっている。長男側弁護士は、もっぱら不動産業者と電話でやりとりしており、その会話内容から、この業者が建売して長男・不動産業者・建売業者で儲けを山分けする予定であることがわかった。→こう解決した。
【解説】
長男側代理人に、長男側が土地を取得し、代償金は、長男側の言う売買価格と同額の価格でかまわないと提案。長男側代理人は、業者と協議し、了解。直ちに遺産分割調停成立。
しかし、長男側の代理人は、実は譲渡所得税のことをすっかり忘れていた。この不動産は先祖代々の相続財産。当然、売買価格に税金21%がかかる。
売れば、売買価格の約2割の税金がくる。一方、代償金には税金がかからない。結果的に長女は一億円を取得でき、長男は6000万円しか取得できないことになる。代償金は取得原価にならないからである。
後日、このことに気づいた相手方弁護士から、「代償金が取得原価に算入できないとなると、建売ができないから、遺産分割の再協議に応じてほしい」という持ちかけがあったが、当然、拒否。長女は、本来、手取りで8000万円のところ、1億円を取得できた。つまり、1.25倍多く取得できた。遺産分割に関しては、税法知識がないと弁護士過誤になるという典型例である。
【特別受益―持ち戻し免除の意思表示  借地権の生前贈与について持ち戻し免除の意思表示が認められた】
相続人は長男と長女。被相続人は、関東南部の某市に、借地上に家を建てていたが、長男が親と同居するため、被相続人名義の建物を取り壊し長男名義にした。
後日、長男は、地主より底地を底地価格で買い受けた。
被相続人が死亡し、長女は、長男は生前、被相続人の借地権を無償で取得しているから、借地権価格相当の特別受益があると主張。
最初、相談に行った弁護士は、長女の主張が正しいと説明。持ち戻し免除の意思表示を証明することはできないというのが、その理由。
後日、弊所に相談に来られ、持ち戻し免除の意思表示を主張すれば何とかなるのではないかとアドバイス。そのまま受任。→こう解決した。
【解説】
長男が、被相続人の家を壊し、そのまま自分名義で借地上に建物を建てたことは、当然、借地権の特別受益があることになる。後日、底地を底地価格で取得してもいる。
しかし、親との同居目的で、かつ、実際、親と同居し、親の介護等をしていれば、親自身も対価を得ており、「受益」があったか、疑問である。仮に、受益があったとしても、親自身は、借地権を遺産の前渡しとして持ち戻す意思があったとは認められない。
親の介護の状況を説明し、他方で、借地権の資産価値の説明をし、両者の「均衡」を調停委員会に説明して、「特別受益なし」で無事遺産分割調停を成立させた。
持ち戻し免除の意思表示の有無は、バランスの問題であり、事実認定の問題ではないことを理解していれば、容易に判断できる話である。
ただし、本件では、長男夫婦が、それなりに両親と円満に生活し介護していたことが重視された。不動産も都内ではなく、都心の一等地というレベルの土地ではない。長男夫婦と親の関係がうまくいっていない、あるいは、場所が都心の一等地となると、結論が異なってくる可能性もある。
【一つの不動産を複数の相続人で取得希望したが、依頼者に希望通りの遺産を取得させたケース】
相続人は被相続人の妻と兄の二人だけ。妻は、被相続人が残した土地の上に家を建て、一部を駐車場として利用して生計をたてている。妻は、「代償金をきちんと支払うから、土地を全部相続したい」と希望している。一方、兄も、「先祖からの土地だから、ヨメに渡すわけにはいかない。多額の代償金を支払うから駐車場部分は自分が取得する」といいはっている。
調停委員会は、窮余の策として土地の共有を提案している。妻の代理人は、この案に賛成し、この方向で調停を成立させる予定でいる。→こう解決した。
【解説】
妻の代理人も、調停委員も素人。この場合、審判移行になれば、妻が代償分割で相続できる案件であり、妻の代理人は、譲歩する必用はなかった。
調停成立寸前に、代理人変更で、弊所弁護士が妻の代理人就任。それから数回で、妻が無事遺産を代償分割で取得できた。
遺産分割で審判に移行した場合はどうなるかは、経験のある弁護士なら予想できる場合が多く、調停委員も、妻の代理人も、この知識がなかった。
ちまたでは、審判に移行すれば、裁判所は共有にするという都市伝説が流れており、この調停委員も、前任の弁護士も、その都市伝説に惑わされてしまった。
【混乱していた遺産分割調停を一気に解決】
遺産分割調停で、相手方代理人は、「申立人は被相続人に多額の負債がある、分割にあたっては、この精算も同時にする必用がある」と主張し、負債の存在を巡って相続人間で紛糾し、協議がつかなかった。相手方代理人は、「これ以上話しあう必用はない、債務の存在を認めなければ、調停には応じない」として、中途から調停への出席を拒否。申立人代理人は、調停委員会のすすめもあり、調停を取り下げ、遺産分割は中断したままである。
相手方は、遺産である自宅に住んでおり、分割しないまま、この家に住むことが目的だった。→こう解決した。
【解説】
調停委員会、代理人ともに間違えている。債務は遺産分割の対象にならないから、調停委員会や申立人代理人は、債務を遺産分割の対象からはずすことで、早期に調停を成立させることができたはずである。
本件は、この中断した状態から、前職の申立人代理人弁護士を解任して、弊所が受任した。受任して、1年もたたないうちに遺産分割調停を成立させた。
ときおり、代理人の中には、存在があやふやな債務の存在を持ち出して、調停や協議を混乱させ、自己に有利に運ぼうとするものがいる。債務は遺産分割の対象にならないという、あたりまえの知識を有していないと、このような相手方の戦略にのっかってしまう。
【公簿面積の不備を発見し、当初予定していた代償金が、ほぼ倍増した。】
相続人は、長男と次男。関東南部の某市で地主が被相続人。遺産は、A土地とその上の建物で、長男が取得を希望し、次男は代償金でもOK、相続分は各2分の1で異論無し。残る問題は、代償金をいくらにするかという土地の評価だけという、一見、単純な遺産分割。
なぜか、長男側は、非常に紳士的で、「兄弟喧嘩はよくない、紛争を早期に解決させたい」といって当方の不動産評価額にあっさり同意した。
長男側のあまりに紳士的な行動に疑問をもち、念のため不動産業者に査定をとってもらったが、業者がいうには、建物の大きさからして、土地の公簿面積より実測のほうがかなり大きいのではないかという意見をいただいた。→こう解決した。
【解説】
相手方に、相手方保管の建築確認図面を提出してもらった。すると、そこには実測面積が記載されており、公簿の倍近い面積がある。
縄伸びといっても、普通は、わずかなもので、公簿が実測の半分というのは、あまり例がない。もともと、公簿が少ないところにきて道路の収容などで分筆を繰り返すうちに、そうなってしまったらしい。そこで、相手方代理人に、建築確認図と公簿の矛盾を指摘し、測量士による土地測量を申し入れた。
そのあとも、いろいろな問題が噴出したが、最終的には実測面積で調停が成立し、代償金は、ほぼ倍増した。
土地収用などがあると、残された土地で、こういう問題が生ずるようだ。
【ローンの分担を請求された相続人だが、遺言の解釈で、ローン全額を相手方の負担とした。】
被相続人の遺産はローン付き賃貸マンションと他の土地。マンション全部を兄に相続させるという遺言があるが、ローンには触れていない。
兄は、マンションは遺言で相続したが、ローンは遺言で触れていないから、全相続人が法定相続分で相続していると主張し、賃料を独占的に取得する一方、他の相続人に、ローンの分担を要求。もし、ローンの分担が嫌なら、他の遺産も放棄しろと請求された。→こう解決した。
【解説】
遺言の解釈をめぐって調停委員会が紛糾。調停の進行そのものが、互いが色々な論点を主張し合う場になっており、調停委員の運営にも問題があり、いくつかの議論が交差し調停が全く進行しない。
弊所が途中で介入して、最高裁の遺言の解釈に関する原則を示し、文言には記載はなくても、ローンを兄が負担するのは当然であると主張。
最終的には、ローンは兄が相続するのが遺言の解釈として決着し、今後は、兄が一人でローンを負担することで合意した。
調停委員の調停運営能力・相続についての知見に、かなり首をかしげるケースだった。
【使途不明金で長期化し混乱していた遺産分割調停を早期に解決】
家裁に遺産分割調停が継続してすでに3年。解決の糸口は見えない。理由は、相手方が、相談者が生前被相続人の遺産を使い込んだと主張し、使途不明金を問題にしているからで、いくら使途を説明しても、納得してくれない、毎回、同じ論争が調停で繰り返され、際限がない。生活が苦しく、早く遺産がほしい。相手方は早期に遺産分割調停を成立させたかったら、使途不明金の存在をある程度認めて和解しろと迫っている。依頼している弁護士は、妥協したらどうかとアドバイスしているが、このアドバイスは正しいか。→こう解決した。
【解説】
アドバイスは間違えている。遺産分割調停が長引く原因は大体決まっていて、使途不明金問題も、その原因の一つである。
東京家裁では、使途不明金問題は、4回やって解決しなければ訴訟に移行する扱いである。理由は簡単だ。4回やっても解決できないのは、当事者のどちらかに解決する意思がないからである。言いがかりに近い使途不明金か、とうてい認められない弁解か、そのいずれか、または双方である。
受任にして、相手の主張がいいがかりに近い使途不明金であることを確認し、かつ、調停で、特別受益の問題にはしないことを確認したうえで、本件遺産分割調停で、使途不明金は、分割調停の対象から外すこととして、早期に和解を成立させた。
なお、使途不明金訴訟は、後日、提起されたが、もともと言いがかりに近い主張であり、全て請求棄却となった。
【5類型以外の特別寄与を主張した相手方の主張を撤回】
父が死亡した際、相続人は、母・長男・次男。母の希望で父の全財産は、長男が相続して遺産分割協議書を作成した。
母が死亡して、長男が法定相続分で分割を提案したが、次男は、前回の遺産の際、長男が、母の相続分までも取得したことが特別受益にあたると主張し、遺産分割実務では著名な書籍の写しを持ち出してきた。
調停委員会も、参考にしている書籍なので、困惑。依頼している代理人は、妥協したほうがいいとアドバイス。→こう解決した。
【解説】
遺産分割実務に携わる人たちの座右の書になっている書籍の一つに、このような記載があり、しかも、何の疑問もなく、特別受益になると断言しているため、一部実務で混乱が生じている。
遺産分割実務業界では名だたる執筆陣がそろっている書籍であるにも関わらず、なぜ、このような記載があるのかわからないが、前回の相続の際の分割方法は、特に、次の遺産分割で考慮するという明確な合意がない限り、特別受益にならないというのが常識。
相談者にこの点を説明し、かつ、同様に実務家が座右の書としている他の書籍の写しを交付した。その時点では相談で終了したが、後日、別の問題で再度相談に来られて、別の理由で、途中から受任し、遺産分割成立。
【相続人の一人が行方不明 依頼者が相続財産を保管することで解決】
相続人は、妻・長女・長男・次男。妻と長女は同居し、長男は、職を転々としている。次男は行方不明。妻・長女は、不在者財産管理人の選任を申し立てたが、次男が取得する300万円の遺産の管理方法をめぐって遺産分割調停が紛糾した。→こう解決した。
【解説】
厳密に言えば、次男が取得する300万円は、次男が現れるまで不在者財産管理人が預かり、毎年、報酬と相殺し、次男が現れるまえに報酬と預かり金の相殺が終了すれば、それで不在者財産管理事件は終了になる。
しかし、預かり金が100万円以下の場合は、家裁は、相続人の一人に相続財産を保管させ、次男が現れたら交付するよう命ずる。これを帰来時弁済(きらいじべんさい)という。
本件は、300万円であり、帰来時弁済の対象にはならないが、不在者財産管理人の協力もあり、家裁の許可を得て、妻が「帰来時弁済」として、300万円を預かることになった。
ただし、他の家裁で、やはり、同額で帰来時弁済を家裁にお願いしたが、認められなかったので、本件は、一般化はできない。
相続人が行方不明の場合、不在者財産管理人を選任することはテキストに書いてあるが、選任された後、どうするかは触れていない。実際は、選任後、「帰来時弁済」に持ち込めるかが、重要な争点になる。
【相続分譲渡により相続分を大幅に増加させた】
被相続人は母。相続人である長女は、母より先に死亡していたので、相続人は、長女の子ども達7人。ところが、調査をすすめると、終戦後のまもない時期に、養子縁組がなされ、次女・三女がいることが判明。
しかし、代襲相続人達は、養子である次女や三女と面識が全くない。
依頼者は代襲相続人長男。そうなると依頼者の相続分は21分の1ということになる。ただ、実際、母親の面倒を一手にみていたのは長男である。→こう解決した。
【解説】
長男には、寄与分の主張が認められても、実務ではわずかな金額しか認められない。そこで、弊所で、他の相続人代理人に先立ち、次女の家に赴き、事情を説明し、相続分を譲渡してもらった。その結果、依頼者は、21分の8の相続分を取得できた。
このケースでは、他の相続人代理人に先立ち、次女の相続分を取得できた。次女が金銭よりも紛争を好まない温厚な性格のために成功したが、同じような案件で、必ずうまくいくとは限らない。
三女は連絡がとれず相続分譲渡は断念した。
そのあと、遺産分割調停を申し立てたが、三女は認知症がすすんでいることが判明。成年後見人を親族から選任してもらい、遺産分割調停を成立させた。
【超過特別受益者に対する相続分譲渡】
相続人は、長男、長女、次男。
本来、相続分は各3分の1であるが、長女は、遺言で3分の2の遺産を取得している(特別受益になる)ので長女は、超過特別受益者となり、具体的相続分はない。分割対象財産を、長男と次男で各2分の1で分けることになる。
しかし、長男は、裕福で遺産に興味が無いが、次男とは険悪な仲で、自己の相続分を長女に譲渡した。
次男代理人は、長男の相続分を譲渡してもらっても、長女はもともと本来の相続分3分の1を超えて3分の2を取得しているから、3分の1の相続分を取得しても、超過部分がゼロになるだけで、あらたに遺産は取得できない、次男が残遺産を取得できると主張している。実務では、しばしば遭遇するケースだが、なぜか、どの書籍にも触れていない。そのため、調停委員会は、判断に困り、調停が空転している。→こう解決した。
【解説】
最初は弁護士をつけずに調停に出席していたが、調停委員から弁護士をつけるよういわれ、中途から受任。
弊所は以下の通り主張。
次男の代理人の考えは、民法の規定に反する。民法903条は、具体的相続分は「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする」としている。
つまり、具体的相続分の割合は、相続時で決めるというのが民法。特別受益や特別寄与は相続時を基準として、全遺産の割合を出す。遺産分割時には分割時の時価に換算するが、具体的相続分の割合は、相続時を基準とする。 本件では、相続時を基準とした具体的相続分は、長女はゼロ、長男、次男は各2分の1である。
その後、長男は、自分の相続分を長女に譲渡したが、もしこの長男の相続分が長女の超過部分に吸収されてしまうと、相続時に確定したはずの相続分が変動し、本件でいえば、次男の具体的相続分は2分の2。つまり、全部ということになる。これは、民法の規定に反する。 そう考えると、相続後に相続人の一人が超過特別受益者である他の相続人に自己の相続分を譲渡しても、超過特別受益者は、譲り受けた相続分で遺産分割手続に参加できることになる。
代理人として、数件、この問題に直面したが、いずれも、以上の説明をし、当方の主張を認めてもらっている。
「調停に代わる審判」だが、同様の意見で審判をだしてもらっている。
【一筆の土地の遺産分割】
被相続人は、夫。相続人は、妻、長男、長女。
遺産は、一筆の土地とその上に建つ二つの建物、それと預金。
相続分は、法定相続分通り。
被相続人の一筆の土地の上に被相続人名義の建物が二棟建っている。表側道路に面した建物は、3階建てで長男夫婦が住んでおり、1階でコンビニを経営し、2階・3階に居住している。裏側の道路に面した建物は、4階建ての賃貸マンションであり、母親が居住し、マンションの賃料収入で生活している。
長男夫婦、特に長男の妻と、被相続人の妻、それと長女は、些細なことから犬猿の仲になっている。
長男の居住する建物と敷地で4000万円。母が居住する賃貸マンションと敷地で8000万円。預金は4000万円。
長男は一筆の土地を分筆し、表通りの土地と建物の取得を希望。母は裏の土地建物、預金は長女という分割案を提示。しかし、妻と長女は、断固拒否し、長男が不動産全部の代償金を支払うか、そうでなければ売却か競売だと主張している。→こう解決した。
【解説】
一筆の土地を相続人間で争い、しかも、各相続人がその不動産との関係が同程度のとき、どのように分割するか非常に難しい。審判に移行しても、勝手に分筆を命ずることなどできない。
本件では妻、長女の提案は合理性がなく、特に、高齢の妻が、永年住み慣れた街を離れてもよい、自分が住み収入源にもなっているマンションを売却しろというのは、明らかに「長男のヨメ憎し」が原因になっていることは明らか。調停委員会が、妻や長女提案の不合理性を指摘しても、受け入れない。
しかし、一筆の土地である以上、このまま審判移行しても長男が遺産分割で土地の表側を取得するという審判は期待できない。
そこで、一計を案じ、妻と長女に、土地を表と裏に分筆したら、どの程度の価格差がでるのか調査したいと申し入れ、了解していただいた。そのうえで、全相続人立ち会いのもとで測量し、分筆登記に必用な図面を作成した。
この図面を裁判所に提出して、審判移行。最終的には、当方が作成した図面を審判書に添付し、表側を長男、裏側を妻、預金を長女という審判をいただいた。
一筆の土地を分割して取得するのは、相続人全員の同意がないと難しい。しかし、本件のように、分筆に必用な図面が作成できれば、その図面を審判書に添付し、その一部を相続させるという審判を取得できる。この場合は、その審判書に基づいて分筆登記を単独で申請し、そのうえで相続登記をすることになる。
ただし、こういう成功例は現実にはレアケース。ほとんどの案件では、分筆登記に必用な図面の作成に協力してもらうことはできない。本件でも、妻も長女も、言うだけいって「ヨメいじめ」をすれば、あとは、長男夫婦を破滅にまで追い込むという意思はなく、だからこそ、分筆登記に協力した可能性もある。
【相続放棄の弁護士過誤】
被相続人は、夫。相続人は、妻と長女。ただし、夫には兄弟がいる。
長女は、区役所の無料相談に行き、「母(妻)に全財産を相続させたい」と申し出て、担当相談弁護士は、それなら、相続放棄をすればいい、とアドバイスした。相談者は、区役所の無料相談であることから若干不安を覚え、弊所に相談に来た。→こう解決した。
【解説】
「親に相続させたいから子が相続放棄する」というのは、よくあるケースである。しかし、子からみて、被相続人に祖父母やおじ・おばがいる場合は、子が相続放棄をしても、祖父母やおじ・おばが相続人になり、かえって複雑になる。
こういう場合は、端的に、長女の取得分をゼロとする遺産分割をするか、母に相続分譲渡をすればいい。相談者には、そのようにアドバイスした。その後、相談者から依頼を受けて遺産分割協議書を作成し、相続登記を終了した。
遺産相続としては単純な事件だが、弁護士が間違えやすいポイントである。
なお、区役所の無料相談は、限られた時間で多くの相談者をさばく必用があるから、精確性には限界がある。担当弁護士も、事務所での相談なら、このようなミスはなかったものと思われる。区役所の無料相談だから弁護士のレベルが低いと言うことはない。
【遺産分割をしないまま遺留分事件を処理した弁護士過誤】
被相続人は、自宅マンションと株を残した。相続人は、後妻Aと長女B、先妻との子どもC。被相続人は、不動産は妻Aに相続させると遺言。対立関係はA・B対C。
C代理人は、自己の遺留分を侵害しているとして遺留分減殺調停を申し立て、Aの代理人は、遺留分相当額である8分の1の価格弁償金を支払い調停が成立した。その後、残った株式の遺産分割を弊所で受任したが、株式の評価が高く、実は遺留分侵害になっていないことが判明した。→こう解決した。
【解説】
この事件は、調停委員も双方の代理人も、相続に関する基本的知見を欠いていたことから、生じたミスである。遺留分減殺調停だから、一人は弁護士委員のはずであり、合計3名の弁護士が、勘違いしていたことになる。
この場合は、まず遺産分割を行い、分割する際、Cの遺留分を侵害しない形で遺産分割をすれば足りた。
A代理人も弁護士として知見を欠いていたが、そのようにアドバイスしなかった弁護士調停委員も、専門家として問題があった。
受任した遺産分割で、価格弁償金として支払った金銭を分割の際、考慮してほしいと交渉したが、法律的には通らない主張。それでも、ある程度のところで妥協した。
遺産分割や遺留分は、弁護士の個人的力量差が表れるということを端的にしめしたケース。
【兄姉妹間の下町人情で遺産分割を無難に終了させたケース】
被相続人は父。相続人は長男、長女、次女、三女。遺産は工場とその敷地しかない。長男は、「自分が長男だし、工場を継いで経営しているから、自分が遺産を単独で取得するのは当たり前、長女、次女は嫁に行ったのだから、相続資格なし」として、長女、次女に強引に相続放棄を迫ってきた。これに長女、次女が猛反発。遺産分割調停を申し立て、法定相続分に相当する代償金を請求。長男には支払える目途がない。→こう解決した。
【解説】
依頼者は長男だが、思考が昭和時代。「嫁に行ったのだから、相続資格なし」という考えが正しいと思い込んでいる。しかし、そんな主張が通るわけがない。家業従事型の特別寄与が認められることはなく、このままでいけば強制換価、つまり、競売になること、現在は、長女や次女の主張が正しいと説明した。長男は、当初は納得しなかったが、最終的には自分の立場が非常に不利なことを認め、長女と次女に「このままでは、工場がなくなり、自分も家族も生活できなくなる」といったところ、長女も次女も「兄を追い詰める気はない。放棄するのが当たり前だろうという態度がかちんときただけだ」と言って、若干の解決金を支払うことで和解した。
遺産分割事件を多数扱っていると、こういう昭和タイプの長男に出会うことが少なくない。本件では、長男が態度を軟化させ、一方、長女や次女も、それほど相続人としての権利意識が強くないことから、円満に話が成立した。もう2件、同じような案件を処理したが、いずれも東京の下町地区といわれる場所だった。
しかし、こういうケースは少数で、多くは、長男は昭和の意識を改めず、他の兄弟姉妹は権利意識が非常に強いというパターン。下町人情的解決は、現実には難しい。ただ、こういう解決ができる場合もある。
【残された老母の居住権を確保】
被相続人は夫。相続人は後妻、先妻との間の長女。後妻と言っても、もう40年も夫婦で生活してきた。遺産は家しかない。預金はわずか。後妻は、先妻の子とは、ほとんど交際がなく、遺産相続事件が起きて初めて先妻の子と面談した。
先妻の子は、法定相続分を主張し、家を単独相続するなら、家の価値の半分に相当する代償金を支払うよう要求し、それができないなら、家を売って売却代金を折半すべきだと主張。
しかし、80歳を過ぎた後妻には、代償金を支払う能力もないし、家を出ることもきつい。後妻から依頼を受けた。 →こう解決した。
【解説】
先妻の子は、権利意識は強かったが、格別、後妻に恨みを抱いているわけではない。そこで、先妻の子に使用貸借権を設定し、生存中は、無料で現在の家屋に居住してほしい、と、お願いし、最終的には、後妻が生涯無料で家住めるという使用貸借権を設定することで合意できた
残された妻の居住の確保をどうするかは難しい問題で、本件は、使用貸借権を設定することで回避できた。ただ、相続人間の対立関係が、非常に激しいとき、後妻を追い詰めることが目的の子供もいて、そういう場合は、配偶者の居住確保という形での決着は難しいだろう。
【先妻の子から依頼を受け、後妻の相続分を限りなくゼロにした。】
被相続人は父。相続人は先妻の子である長男と後妻。ただし、後妻といっても、永年連れ添った訳ではなく、2,3年前に結婚しただけ。被相続人とは、かなりの年齢差もある。
遺産は1000万円の土地があり、その土地の上に長男が家を建てて住んでいた。
父は、後妻と結婚するまで、その長男の家に同居し、長男家族から世話を受けていた。
長男は、同居中、父に500万円の生活資金援助をし、一方、後妻は、父の死亡後、生命保険金を400万円取得している。
遺産分割調停で、後妻は、遺産分割として500万円の代償金を主張し、「支払わないなら家を撤去して売却しろ」と主張している。困った長男は、弊所に事件を依頼した。 →こう解決した。
【解説】
依頼を受け、次のように主張した。
①土地には長男の使用貸借権がついているから1割減額すべきだ。
②長男は、被相続人と同居し、介護していたから、持ち戻し免除の意思表示があり、使用貸借権の設定が特別受益と認定されることはない。
これにより、遺産は900万円に減額された。
次に、以下のように主張した。
③長男は、500万円の金銭出資型特別寄与があるから、900万円のうち、500万円は長男の特別寄与分に組み入れられる。
④そうなると、分割対象遺産は、400万円である。
ここで、遺産の評価が400万円にまで下がった。
⑤後妻は400万円の生命保険を受領している。
⑥この400万円と分割対象遺産の400万円を比べると1対1だから、後妻の受領した生命保険金400万円は、特別受益にあたる。
⑦その結果、長男は、代償金を支払うことなく、遺産である土地を取得できる。
 この主張は受け入れられ、長男は、多少の解決金を支払うことで、遺産分割調停が終了した。
本件では、相手方代理人自身が堂々と法定相続分を主張することにためらっていたふしがあり、すんなりと和解案は受け入れられた。後妻対先妻の子の争いは多いが、本件のようにうまく解決できるケースは、少ないと思ったほうがいい。
夫婦間で極端な年齢差があり、かつ、相続まで婚姻期間数年という場合、第三者には、後妻の結婚は財産目当てとうつるが、後妻には後妻の思いがあり、必ずしも、そうとは言い切れない場合が少なくないからである。
また、後妻が永年連れ添った場合で、高齢の場合などは、むしろ、後妻保護の必要性が高くなる。
【相続人全員の同意なく貸金庫を開披させ遺産を搬出できたケース】
被相続人は父。相続人は長男A、次男B、三男C。被相続人名義の貸金庫があり、中に重要な遺産があるようだが、定かでない。しかし、三男Cは、遺産分割調停の話し合いに応ぜず、家にひきこもっている。
このままでは、遺産分割調停が進行しない。長男が困惑して弊所に相談に来た。 →こう解決した。
【解説】
遺産分割実務では、よくあるケースである。
貸金庫は、銀行の金庫室内にあるキャビネットの賃貸借契約だが、相続により、この契約は、相続人が、その契約上の地位を相続したことになる。
相続人が、キャビネットの賃貸借契約上の地位に基づいて開披と搬出を請求しても、銀行は、貸金庫の開披も搬出も処分行為だから、全員の承諾が必用になるという扱いをしている。
そのため、相続人の内一人でも積極的な同意がないと銀行は、貸金庫の開披・搬出を拒否している。遺産分割調停は、ここで頓挫することになる。
本件は、まさにこれで、三男は、遺産分割に興味がないとか、そういう問題ではなく、ともかく、兄弟とは一切接触したくないという。
こういう場合は、公証人に頼んで事実実験公正証書を作成してもらう。銀行の多くは、公証人が事実実験公正証書を作成するなら、一部の相続人だけの依頼でも応じてくれることが多い。
しかし、この事実実験公正証書は、あくまでも貸金庫のなかにある遺産・遺品を確認するだけで、搬出できない。搬出するためには、やはり、全相続人の同意が必要になる。
遺産管理人の選任を申し立てたらどうかという意見もあるが、遺産管理人は、「管理」の権限しかないから、開披はできても、搬出はできない。搬出は「管理行為」ではなく、「処分行為」だからだ。
最終的には、「調停に代わる審判」で、長男に貸金庫の契約上の地位を単独相続させ、搬出して、無事、調停を進行させることができた。
ただし、かなりイレギュラーな方法だから、裁判所とよく相談したほうがいい。
ケース25【相続人の一人が海外にいて遺産分割手続参加の意思が全くない場合に、遺産分割を成立させた】
被相続人は、父。相続人は、長男と長女、次男。遺産は、賃貸マンションで、ローンを支払い中である。
長男は、この賃貸マンションとローンを引き継ぎ、それに見合う代償金を長女・次男に支払って遺産分割を終了させたいと思っている。次男は了解している。
長女はアメリカのロサンゼルスに住んでいる。大学卒業後、すぐに米国に行き、現地で結婚して子供たちもいる。渡航して以来、一度も日本に帰ってきたことはない。父や兄弟ともほとんど連絡がない。父の死亡も連絡したが、葬儀にも来なかった。
メールで、遺産分割の協議を持ちかけても、全く反応なし。かといって、相続分を放棄する考えもない。困った長男が相談に来た。 →こう解決した。
【解説】
こういうケースは、かなり経験している。弊所の経験では、我が国での遺産分割手続を無視するのは、ほとんどが、欧米で生活基盤を築いた相続人である。東アジア等、他の地域では、こういう問題はない。むしろ、積極的な場合が多い。なぜ、こういう違いがでるのか、理由がわからない。
端的にいって、日本の遺産にもともと興味がないのだが、だからといって、かの国には制度のない「相続分放棄」などわけのわからない制度に協力する気もない。関わらず無視するということのようだ。
こういう場合、どうするか?
協議に応じないなら、調停を不調にして審判に移行すればいいと思われるかもしれないが、そうはいかない。単なる審判移行だと、ローンが審判に移行しない。ローン無しのマンション価格の代償金を支払うことになる。
こういう場合は、遺産分割調停を申し立て、出席した相続人間で遺産分割協議をし、合意ができたら、裁判所に頼んで「調停に代わる審判」をだしてもらう。この制度を利用すれば、出席相続人間で合意を成立させ、そのうえで裁判所から「代わる審判」をだしてもらって、この合意を出席しない相続人に及ぼすことができる。
このケースでも、長男と次男で、マンションとローンは、長男が引き継ぎ、次男と長女は、法定相続分での代償金を支払うという合意をして中間調書を作成し、この合意に基づき、裁判所から「代わる審判」をだしてもらった。異議は出ず、無事、遺産分割が成立した。
【公正証書遺言を無効にして遺産分割を成立させたケース】
被相続人は母。相続人は長男・長女。依頼者は長女。死後、長男は公正証書遺言があることを明らかにし、遺留分による和解案を提示。長女は、当初、地元の弁護士に依頼。しかし、その弁護士は、公正証書遺言の無効など無理だと決めつけ、遺留分での和解をすすめる。
納得できない長女は、前任弁護士を解任し、弊所に依頼。 →こう解決した。
【解説】
本件は、医療記録や介護記録を取り寄せ、精査したところ、公正証書遺言作成時には異様な言動があることが判明した。
長男側弁護士も、公正証書遺言が無効なことを事実上認め、法定相続分で遺産分割をすることに合意し、高額な代償金を獲得した。
本件の前任弁護士のように、公正証書遺言が無効になることはないと思い込んでいる弁護士が多いが、意外と無効になる。その多くが認知症だ。認知症は、日常生活を共にしていないとわからない。10分、20分程度の面談で、公証人に、遺言者が認知症か否かを見抜けるはずがない。専門医でさえ、家族からの訴えで初めてわかるものである。
ただし、認知症=遺言無効とはならない。認知症でも軽い認知症なら無効になることはない。
似たような案件は多いが、無効に持ち込めるケースは、持ち込めないケースよりも少ないのが実情だ。
【相続後の家賃も具体的相続分で精算】
家賃は、被相続人の死後も、被相続人名義の口座に振り込まれている。合計額は2000万円。
長女の代理人は、相続後の家賃は、法定相続分で当然に分割されるから、具体的相続分ゼロでも、家賃の2分の1は相続できると主張。 →こう解決した。
【解説】
相続後の家賃は、相続時に存在せず、相続後に発生したものだから、遺産ではなく、法定相続分で当然に分割される。相手方弁護士は、この「常識」に従って主張したのだが、本件は、被相続人の口座に入金されているのがミソ。
普通預金も遺産分割の対象になるとした最高裁判例によれば、遺産は普通預金取引契約そのものであり、残高は「評価」にすぎない。この立場にたてば、鬼丸かおる最高裁判事の指摘するとおり、被相続人名義の口座に入金された預金なども遺産分割の対象になる。
その点を指摘し、相続後の家賃も被相続人名義の預金に入金された以上、具体的相続分で分割され、具体的相続分のない長女は取得できないと主張し、相手方代理人も納得。相続後の家賃2000万円を全部取得できた。
実は、この問題は、もう一つ未解決の部分があるのだが、相手方代理人は、これに全く気付かず、事件は終了した。
おそらく、多くの弁護士は、この「未解決の問題」に気付かないだろう。しかし、遺産分割理論に精通した弁護士なら、この「未解決の問題」がわかるはずで、これを提起されたら難しい問題になっていた。
【特別寄与の態様を明確にすることで特別寄与を認めてもらった。】
被相続人は、父。相続人は、長男と長女。長女は父を引き取り、父を何かと世話をしていた。遺産分割では、当初の代理人弁護士は、ただ単に寄与を主張しただけだが、調停委員会に相手にされず、「特別性がない」として一蹴された。代理人弁護士の言動に不安を感じた長女の弁護士は、弊所に相談。 →こう解決した。
【解説】
本件は、相談を受ける限り、2類型の寄与行為を検討すべき案件だったが、寄与が比較的認められやすい金銭出資型の寄与を主張するようアドバイスし、その要件と立証方法を指導した。
ただ担当弁護士は、寄与の5類型の要件も知らず、弊所のアドバイスをあまり理解できなかったようで、遺産分割調停でも、とんちんかんな発言を繰り返し、結局、弁護士変更で、途中から受任。無事、特別寄与を認めてもらうことができた。
遺産分割調停で特別寄与を主張するなら、代理人弁護士は、必ず、5類型の寄与のうち、どの寄与に該当するかを明確にし、要件事実に従った主張と立証をしなければならない(詳細は、弊所が弁護士を対象に配布している「誤解の多い遺産分割調停 弁護士が勘違いする実務のポイント」をご覧ください)。現在、特別寄与は、割合方式ではなく、計算方式で寄与分を算出しているからである。
しかし、実際は、これができる弁護士は、ホームページで相続専門とうたっている弁護士を含めて、ほとんどいない。調停・審判で、ただ「寄与がある」と主張するだけで、どの類型の寄与かさえ明示できない弁護士がほとんどで、5類型の分類さえ知らない弁護士が多い。
多くは、弁護士が主張するだけ主張し、調停委員会が、聞き取って整理し、「指導」して何とかしているというのが現実だ。しかし、調停委員に力量がないと、これも不可能になるし、そういうケースも散見される。
特別寄与の主張・立証は、かなり弁護士の力量差が端的に現れる。
なお、調停・審判で、特別寄与を主張する際は、いきなり、大量の証拠書類ややたら詳細な主張書面をだすのではなく、まず、簡単な主張書面をだして調停委員会の反応をみたほうがいい。簡単な主張書面とは、①まず5類型の内、どのタイプの寄与かを明確にし、②その要件事実に従って簡潔に事実が記載されているというものだ。
というのは、主張される特別寄与・特別受益のなかには、その主張を聞いた瞬間に、「あ、これは問題外」という主張が、非常に多い。その場合は、その主張の撤回を調停委員会から勧められるはずだ。「問題外の主張」のために、大量の書面や証拠書類をだすのは、迅速な調停の進行のためには避けるべきだ。
【遺留分で価格弁償の早期提供をし、相手方の家賃取得を防いだケース】
被相続人は父。相続人は、長男・長女。遺産は、賃貸マンションだが、毎月、かなり高額な家賃収入がある。遺言書があり、全財産は、長男に相続させることになっている。長女は、遺言書の呈示があったのち、すぐに遺留分減殺の意思表示をした。
その後、双方に代理人がつき、遺産の価格や代償金の支払い方法をめぐって紛糾。3年経過しても、解決しない。3年後、長女が遺留分減殺請求訴訟を提起し、また、相続から現時点までの家賃総額4分の1の返還を求めた。
あわてた長男が、弊所に相談。 →こう解決した。
【解説】
遺留分減殺の意思表示をすると、減殺の意思表示の到達した翌日から、家賃総額のうち、遺留分相当額部分が、自動的に遺留分請求権者に帰属することになる。遺産に収益物件があるときは、この点を注意する必要がある。
しかし、現実には、価格弁償の金額にばかり注意がとらわれ、家賃の精算は代理人弁護士を含めて当事者双方の意識外という場合が非常に多い。
本件は、依頼を受けるや直ちに、価格弁償金相当額について相手方代理人に、「支払うから振込先を教えてほしい」と文書で連絡し、現実の提供をして、それ以降の家賃の精算を免れた。しかし、それ以前は、前任の弁護士のミスで何の対応もしていなかったので、家賃を支払うしかなかった。
【先妻の子から後妻の子に対してなされた特別受益・特別寄与の主張を排斥し、法定相続分で調停を成立させた。】
被相続人は、父。相続人は、先妻との間に長男、後妻、後妻との間の長女。先妻とは、子どもが幼い頃離婚し、十分な養育費も支払ってもらえず、子どもは地元の中学を卒業したのち、工場等で働いてきた。一方、後妻の長女は、小学校から大学付属の私立に通い、エスカレーター式で、その大学に進学し、卒業し、今は、証券会社に勤務している。
【先妻の長男の主張】
①後妻の長女の生育環境があまりにも自分と異なることから、小学校から大学までの全学費が特別受益になる。
②十分な養育費の請求をしなかったことで、養育費相当額の支出をまぬがれ、遺産形成に寄与したから、養育費相当額全額が特別寄与になる。
【後妻と後妻の長女の主張】
①先妻と離婚したときには被相続人は無一文で、後妻と婚姻後、現在の財産を築いたから、後妻には、高額な特別寄与がある。
②先妻の長男に、高校時代、高校卒業後、たびたび面談し、その都度、生活費や学費に困った先妻の長男に、10~30万円程度の金銭を援助しており、これは、先妻の長男の特別受益になる。
と主張している。
互いが、法定相続分で解決するのは不公平だと言い合い、協議がなりたたない。困惑した後妻と長女が、弊所に依頼した。 →こう解決した。
【解説】
後妻については、無一文の夫と苦労して現在の財産を築いたとしても、それは2分の1という相続分で評価されているから、特別寄与にはならないと説明した。また、先妻の長男が、たびたび2~30万円のお金をもらっていても、なにもしてやれなかった長男に対するお詫び的要素があるから、特別受益にならないと説明した。そのうえで、法定相続分で分割されることになるという了解をもらったうえで、受任した。
問題は、相手方代理人で、遺産分割調停で強硬に後妻の長女に対する特別受益と不十分な養育費しかもらわなかったことによる特別寄与を主張し、一歩も、ひかない。最終的には、調停委員会の説得で法定相続分で分割できたが、説得にかなりの時間がかかった。
本件を含め、相手方代理人に、遺産相続に対する力量知見が不足していると、遺産分割がこじれ長期化する。弊所でも、そういうケースは、かなり経験している。本件も、その一つである。
遺産分割では、立場により何が公平か考えが異なり、主観的な「公平」は解決基準にならないのだ。ただ、これを理解していない弁護士が非常に多く、こういう弁護士が相手方代理人になると、不必用に遺産分割が長期化する。
【相続後、遺産に不動産があることを知りながら半年経過したにもかかわらず相続放棄を申述し、かつ、放棄申述後に不動産の相続登記をした。】
被相続人は父。相続人は長女。母は相続前に離婚している。離婚原因は、父の放蕩生活である。母と長女は、時価2000万円の父名義のマンションに住んでいて、そのままになっている。
離婚後は、母も長女も、被相続人とは全く連絡がとれず、突然、区役所から連絡があり、死亡の事実を知った。
その後、半年ほどして、A社の代理人弁護士から突然長女に連絡があった。
「被相続人は、生前A社に勤務していたが、会社のお金を約2億円ほど横領していたことが発覚した、賠償してほしい」という。
そこで、今から相続放棄ができないかと相談に来た。→こう解決した。
【解説】
3ヶ月を経過しても相続放棄ができるのは、「資産も負債も何もない、だから、相続放棄など必要ない」と誤認していた場合に限られる。本件では、父名義のマンションがあることを知っていて、多額の負債があることは知らなかったというケースだから、相続放棄はできない。
しかし、母がいうには、「口頭での約束であるが、離婚の際、財産分与と慰藉料代わりにこのマンションを取得しており、登記が未了だっただけだ、これは遺産ではないと思っていた」という。そこで、その主張を前提にして相続放棄の申述を申請したところ、相続放棄が受理された。
その後、A社の顧問弁護士に相続放棄の申述受理証明書を示して協議し、200万円を支払い、その余の負債は請求しないことで和解し、居住マンションについて相続登記をした。
相続放棄の申述受理=相続放棄が有効と認定されたわけではない。裁判所は、「申述」を「受理」しただけの話しである。母の「口頭での財産分与」は、無理筋な主張であるが、それでも申述は「受理」してくれる。
受理証明書そのものは、実は、法的には、あまり意味あるものではないが、この受理証明書を交渉材料として使うことはできる。本件では、非常に効果的な交渉材料になった。
【分割方法の指定だけがされている遺言で法定相続分を超えて取得したにも関わらず代償金を支払わずに解決した案件】
被相続人は父、相続人は長男甲の孫二人A・Bと次男乙。遺産は2000万円の不動産と2000万円の預金。長男甲は、父より早く死亡しており、A・Bは代襲相続人である。相続分は、A・Bが各4分の1、乙が2分の1。
遺言には、「不動産は長男甲が取得し、もし甲が死亡しているときはAに取得させる」と記載してある。
相手方代理人は、①この遺言は分割方法の指定しかなく、改めて遺言にしたがった遺産分割手続が必要である。②長男甲が相続する場合は、法定相続分を超えないが、Aが単独で2000万円相当の不動産を取得するときは、1000万円相当の法定相続分を超える③したがって、AはBと乙に各500万円、合計1000万円の代償金を支払うべきだと主張した。 →こう解決した。
【解説】
遺産相続に関する書籍には、「分割方法の指定遺言は、分割方法を指定しただけで、分割協議が遺言に拘束される効力しかない」という記載が普通なされている。その代理人は、おそらく、その書籍を読み、「遺言にしたがって分割するが、代償金を支払え」とまじめに主張したのだろう。
しかし、「相続させる遺言」について、最高裁は、「香川判決」で、遺産分割方法指定説にたちながら同時に遺産分割効果説にたち、特定の遺産は、相続と同時に当然に当該相続人が取得すると判示した。
これにより、「帰属指定型遺産分割方法の指定遺言」は、その分割方法の指定には物権的効果が生ずると解されることになった。
その結果、相続と同時に当該相続人は当然に当該遺産を確定的に取得し、これは、特別受益となる。そして相続分を超えて特別受益があっても、民法により超過分を返金する必要はないから、本件でも長男は代償金を支払う必要はないことになる。
書籍には、最高裁の香川判決で従来の「分割方法の指定遺言」に解する解釈が、どのように変更されるか明記してある書籍が少ないが、帰属指定型遺産分割方法の指定遺言は、その分割方法の指定には物権的効果が生ずるというのは遺産分割実務の常識。相手方代理人は、書籍に基づく知識はあっても、経験に基づく知識は不足していた。
相手方代理人は、いろいろと反論したが、調停委員会が相手にせず、代償金を支払う必要はないということで調停を成立させた。
【相手方の、億を超える特別寄与の主張を撤回させ法定相続分で遺産分割を成立させたケース】
被相続人は父親。相続人は長男と次男で、相続分は2分の1ずつ。長男は、父の経営する株式会社の専務で、父の事業を手伝い、長男の妻は、被相続人の介護を熱心にしていた。
遺産総額は1億円だが、長男代理人は、被相続人の経営する会社を熱心に手伝ったことによる家業従事型特別寄与と被相続人の母を被相続人にかわって介護したという療養看護型特別寄与があり、寄与総額は一億円を下らない、次男には相続分はないと主張した。 →こう解決した。
【解説】
似たような案件を、何件か受任している。いずれも相手方代理人は、長男夫婦の苦労話を繰り返し述べ、寄与の要件も吟味せず、風が吹けば桶屋が儲かるみたいな論理を主張し、途方もない金額の寄与を主張する。
相手の主張は、「被相続人に対する貢献」はほとんどなく、「被相続人の配偶者や被相続人が経営する会社に、これだけの寄与をした。合計額は1億円だ」というめちゃくちゃな主張である。特別寄与は、相続人の「被相続人に対する」特別な寄与であり、「被相続人の配偶者」や「被相続人の経営する会社」への寄与は何の考慮もされない。寄与制度は、親孝行な相続人に対する恩賞ではなく、遺産という財産の中に含まれている寄与割合を、寄与分という権利に変換する制度だからだ。
遺産相続の倫理を知らない、この手の弁護士は、中途半端な知識があるだけに、素人よりも扱いにくい。
いずれも、最終的には、法定相続分で分割したが、相手方というよりも相手の代理人の説得が大変で、無意味に遺産分割が長期化した。
しかも、その手の代理人ほど感情的になるので、感情的なしこりを残す結果になった。遺産分割に精通していない弁護士に依頼すると、紛争が無意味にこじれ長期化するという典型例である。
【公正証書遺言を無効にしたケース】
遺言者は妻と障害を抱えた子の3人家族で、家族仲はよかった。遺言者は母の土地に建物を建てて生活してきたが、無償利用で、借地権は設定していなかった。遺言者は、なぜか、自分の死期が迫ったときに病院で自分の兄に家を遺贈する公正証書遺言を書いた。遺言者の死亡後、兄は、遺言書をたてに家から出ていくよう遺言者の妻子に迫った。弊所は妻子から依頼を受けて遺言の効力を争った。 →こう解決した。
【解説】
遺言の効力が争点となったが、裁判所は、遺言者に遺言能力はあり、口授の要件も満たされていると認定しながら、遺言者には遺言者死亡後の土地利用について錯誤があり、遺言の無効を認めた。相続人である妻子は、無事、建物を相続できた。
遺言能力や口授に問題はないが、事案の筋としては妻子に家の相続を認めるべき案件であり、こういう場合、裁判所は、遺言の意思がないとか錯誤があるとして妥当な結論を導き出すことがある。事件の筋を細かく主張・立証を積み重ねた結果の勝訴である。
公正証書遺言が無効とされるケースは珍しいというのが都市伝説だが、勝訴的和解を含めれば、少なくとも弊所では、結構、実績がある。
【遺言の合理的意思解釈で遺産である不動産を取得したケース】
被相続人は父。相続人は長男A、次男B。遺言書に「自宅」としか記載がない。被相続人の所有する不動産は、登記所は特定されないとして登記を拒否。依頼していた弁護士も、この遺言は無効だと言い出し、どこの弁護士事務所に相談言に行っても同様の意見。弊所の書籍を見て弊所に依頼。→こう解決した。
【解説】
遺言の合理的意思解釈を主張して訴訟を提起し、確認判決をもらい、無事、自宅を相続登記することができた。
【療養看護型特別寄与で介護サービス利用期間も計算に含めてもらったケース】
療養看護型特別寄与では、介護日数に介護報酬額をかけて寄与分を計算するが、その際、介護サービスを受けていた期間は除く。依頼していた弁護士も、やむを得ないという。そこで、弊所に依頼した。→こう解決した。
【解説】
相談者は納得できず現実の介護が大変なときは、裁判所も介護利用期間をある程度計算に入れてくれる場合があるところ、介護の大変さを記録で立証することに成功し、半日分として考慮してもらった。ただし、これが可能なのは、最低でも要介護が4以上。3以下では、ほぼ無理。また、このあたりは、かなり担当裁判官の直観・主観に影響され、こう立証すれば、必ず認定してもらえるというものでもない。

このあと,随時加筆していきます。