株式配当金は遺産分割の対象となるか

今まで株式配当金は、法定果実であり、賃料と同じく遺産ではなく、発生と同時に法定相続分で分割されるというのが実務の常識でした。東京家庭裁判所家事第5部でも、配当金を賃料と同じく法定果実であり遺産ではないという説明をしています。
ところが、令和7年3月14日大阪地裁判決で、株式配当金は、株式の内容を構成する剰余金の配当を受ける権利が具体化したものであるから、相続開始後に発生した配当金も相続人に当然に分割されるものではなく、発行会社等に相続分に応じた請求をすることはできないと判断しました。これは、従来の遺産分割の「常識」をくつがえすもので、実務にかなり混乱が生じています。
東京家庭裁判所家事第5部では、配当金が発生と同時に法定相続分で分割されるというのは、ほぼ常識的事項でした。元家事第5部部長の関判事は『遺産分割手続』(商事法務、244頁)で、抽象的剰余配当金請求権(配当決議で内容が確定する前の配当請求権)は株式の一内容だが、「具体的剰余請求権は、株主を債権者として具体化した金銭債権であり、株式の一内容をなす権利とは言えないから、株主と別個独立に処分(譲渡・差押)の対象となる。そして、同請求権は、法定果実であるから、原則として遺産分割の対象財産とは言えない」と指摘しています。その際、判例として、名古屋高裁平成23年5月27日判決(金判1381号55頁)を挙げています。また、やはり、東京家庭裁判所家事第5部裁判官であった山城司判事も、「遺産ではなく発生と同時に法定相続分で分割される」と当然の様に説明しています(山城司『Q&A遺産分割事件の手引き』日本加除出版、136頁)。
地裁の判断は、おそらく、共同相続された委託者指図型投資信託の受益権そのものは分割されず(最判平成26年2月25日)投資信託受益権に基づいて個別具体的に発生した支分権たる配当請求権も、遺産分割対象であり、当然分割にはならない(最判平成26年12月12日)とする判例をもとに、投資信託と同じだと考えたのでしょう。
しかし、委託者指図型投資信託受益権は、運用益の配分そのもの目的とする権利です。この内容そのものを具体化した収益分配請求権は、遺産から発生した権利というよりは、遺産の不可分な一部をなすと考えられます。ちょうど預金と利息の関係に類似します。これに対し、株式は、配当金そのものを目的とした権利ではありません。株式は、(議決権のない種類株式を除いて)議決権を行使し会社運営に参加する権利です。議決権の行使を通じて会社経営に参加し、利益がでても、従業員の給与だけ回してもよいし、あるいは会社内部に利益として留保してもかまいません。ただ、総会で、配当を決議した場合は、その決議に基づき、株主は、会社に対し配当請求権という債権を有し、会社は配当支払い義務という債務を株主に負担します。利益配分のための投資信託とは異なります。また、仮に地裁の判決に従うと、株式配当請求を株式とは別個独立に差し押さえることはできなくなります。これは、従来の差押え実務とは矛盾します。
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